人間嫌いの小説家の嘘と本当

天井を見上げて、深く息を吐く。
情けなくて……悔しくて、目頭が熱くなり次第に視界がぼやけてくる。

泣くな。ここで泣いたら負けだ。
溢れ出そうになる涙をギュッと目を閉じて堪える。
そして再度彼へと向き直った。



「これ見てよ。会社の人達がお祝いにって、こんなに綺麗な花束くれたの。式には呼んでねって……こんなことなら辞めなきゃ良かったな」



三年間務めた書店のスタッフのみんなから貰ったお祝いの品々。
それを彼に見せながら、過去を振りかえる。

私にとって、あの仕事は特別だった。
大好きな本に囲まれて、誰よりも早く手に取ることができる。
棚卸しや本の入れ替えなどで、深夜まで掛かった事もあった。
いろいろ大変なこともあったけど、スタッフもみんな良い人ばかりですごく楽しかったな。

思い出を辿りながら、一つ二つ大きな花びらに雫が落ちていく。



「……涼花」



いつの間にか、真幸が顔を上げ私を心配そうに見つめていた。
なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの?
やっと幸せになれると思っていたのに……なんで――。

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