人間嫌いの小説家の嘘と本当
第二章
揺れ動く想い
「さっきは叫んでしまって、申し訳ありません」
玄関口で、有栖川さんをお見送り。
私は、彼に深く頭を下げて謝っていた。
侑李は眠いからと言って、さっさと寝室に戻ってしまいココにはいない。
「いえいえ。ちょっと驚きましたけど」
苦笑を浮かべながら、靴ベラと使い靴を履いていく。
向き合った彼に、カバンと侑李の原稿が入った封筒を手渡した。
「先生。とても楽しそうですね」
楽しそう?……あぁ、私を苛めて楽しんでるって事ね。
確かに、私の反応を見て面白がっている最低男だわ。
「こっちは、大変迷惑してますけど」
「そうですか?処女作から先生の担当をしてますけど、あんなに楽しそうな彼を始めて見ました」
処女作「忍びよる靴音」が出版されたのは、確か十二年前。
両親からも世間からも虐げられた少年が、強く生きていく様を描いた作品。
高校生ながらも衝撃を受け、読み終わったあと物凄く考えさせられたのを覚えている。