人間嫌いの小説家の嘘と本当
彼の仕草が、あまりにもまなめかしくて思わず顔が赤くなる。
それを見られたくなくて、俯きシュークリームにかぶりついた。
大人の色気が、だた漏れだ。こっちが恥ずかしくなる。
「侑李さま、お手拭きをどうぞ」
侑李は、櫻井さんから温かなお手拭きを受け取ると、そのまま私の顔に押し付けた。
「ぶっ、何するのよ!」
「鼻の頭に付いてたから、拭いてやったんだよ」
「それにしたって、なんか言ってからにしてよ。もう……」
まだ違和感が残る鼻の頭を、手の甲で拭う。
怒ったふりをしながら、横目でチラリを彼を盗み見る。
甘いのは侑李の方だ。
さっきから、心臓がドキドキ鳴りっぱなしで調子が狂う。
あんなことをされた後なのに――もしかして私、侑李のこと……。
ううん、違う。そんな筈、無い。
このドキドキは、きっと……そう、吊り橋効果ってやつ。
侑李が襲われた、そのドキドキを未だに引きずっていて恋だって勘違いしてるだけよ。