後ろの席はちびの速水くん
距離を置いた時があった。
1年の夏に付き合って、1年の冬に距離を置いて
また、2年の夏に置いた。
距離を置いた理由は、あたし自身の気持ちが分からなかったから。
だから、せめて距離を置いたら自分の気持ちに気づくと思った。
1年生の冬。
あれは速水くんと席が前後の時だった。
『あたしね、今駿くんと距離置いてるの』
『なんかあった?』
『うーん、好きかどうか分かんなくて』
あの頃は本当に自分の気持ちが分からなかった。
あたしはこの人のどこが好きなのかな、ってずっと悩んでた。
『水原さんはさ』
『え?』
『あいつがいる事に当たり前になってんじゃない?』
『...』
『まぁそれで自分の気持ち分かんなくなったの分かるけど、』
『うん...』
『距離を置けばまた気持ちも分かってくるかもね。有り難みを知るって言うか』
『...そうだよね』
『でも別れないんでしょ』
『...別れるって事は裏切るって事だから...あたしはそんな事出来ないよ』
『...そっか』
『うん...』
速水くんはこの頃からあたしの相談にのってくれた。
そんなある日、駿くんからLINEが来た。
『明日の放課後、グラウンドに来て。来るまで待ってるから』
来るまで待ってるって...。
あたしの苦手分野だよ。
あたしがもしも帰ったりしたら、駿くんはずっとそこにいるわけであって。
はぁ...。
「どうしよ」
はぁ、今日は行くか行かないかで1日悩まされた日々だったな...。
「速水くん...」
あたしは速水くんに話した。
駿くんからLINEが来て、放課後グラウンドに来てって言われた事を。
すると速水くんは、窓の外の駿くんを見て
「あいつ待ってるよ」
と言った。
「うん...」
校舎の窓から見ても駿くんひとりの姿が分かる。
制服でひとりボールを使っている。
今日はサッカー部、部活が休みみたいで、
グラウンドには他に人はいなかった。
「行けよ」
「...」
沢山悩んだ。
だけどあたしは...。
別れるなんて考えられないから...。
あたしがきちんと向き合えば、
あたしが努力して好きになれば...。
本音を言えば、あたしは速水くんへの気持ちの方が高かった。
同じ委員会をしていても今までは気づかなくて、
席が前後になって、あたしの気持ちは揺すぶられていたんだと。
だけどそれは、裏切り行為。
彼氏がいるのに気になる人が出来るなんて。
それは最低。
だからあたしは自分の気持ちを諦める。
駿くんと、向き合おう。
すると速水くんがあたしの背中を軽く押した。
「行ってこい」
...
「うん!」
あたしはその速水くんの一言で元気づけられた。
向き合おうと思った。
迷いなんて無いと思ったから...。
「...駿くん!」
あたしは走って駿くんの元へ行った。