後ろの席はちびの速水くん
「よーし!食べるぞー!!!!」
香はお皿を持っていざ、戦場へというような感じで
料理が並ぶところへ行ってしまった。
全く。
はしゃぎ過ぎだっての。
そういうあたしも実はいつもよりテンション高かったりして。
「奈々、最近西崎くんと良い感じじゃん」
「えー?司くん?」
なんで司くんなんか。
席が前で話すだけで。
「優しいし、あたし西崎くん押し」
「はーっ、ないないない」
というか昨日駿くんと別れたばっかりだし。
「理想の身長だしね」
「まあ...でも別にあたし身長なんか気にしないよ?」
「奈々が小さいからねー」
「小さくないし」
「150センチ無いなんて小学生みたいで可愛いじゃん?」
「ばかにしてるでしょー」
「してないしてない、あたし好きだけどなぁ」
「ふーん」
どうだか。
「昨日泣かなかった?」
香は唐揚げを食べながらあたしにそう言った。
「...泣いたよ」
「そうだよね...長かったもんね...」
「ほんと...なんかさ駿くん前から別れたそうだったし。きっとあたしが振るの待ってたんだよ」
「うーん、あのマネージャーなのかな」
「多分ね」
「後輩のくせになんなのあの人」
「そうだよね、あの子が来てから駿くんの性格変わったんだもん」
「そうよね」
「好きなんじゃない?あの子のこと」
「えー、それはないでしょ。あの子可愛くないし」
「顔じゃないよー」
「そうかもだけど中身だって良いとも聞きいよ?」
「うん、まあね。でももういいんだ」
「そうね、もう終わったことだもんね」
「うん。それにもう大丈夫だし」
「もう好きじゃない?」
「うん!」
嘘...本当は少しだけ。
気になるんだよね。
1年前は駿くんが好き好きって感じだった。
あたしすごく大切にされてるんだと。
でもそれは最初だけだった。
1年超えたら性格変わっちゃったし、
むしろあたしの方が好き好きってなっちゃって、
時間が経つ事に好きが増していっちゃって、
自分から告白しといて何なんだよって感じだよ本当。
男なんか信じられない。
最初だけなんだよね。
「あ、そうだ奈々!」
「へ?」
「ゴールデンウィークって空いてる?」
「へ?空いてるよ?」
「そっか!あたしと一緒に短期アルバイトしない?」
「え、アルバイト?」
「うん!どうせ暇人でしょ?」
「3日は部活の引退試合があるからその日以外なら...」
「よし!なら決まり!」
「分かったよ」
ま、短期ならいいか。
「香は部活無くていいね」
「奈々も辞めちゃえ」
香は笑ってそう言う。
「あとちょっとで引退なんだし。進路にも関わるしさ」
「進路ねぇ、奈々先の事考えてるねー」
「そりゃあそうだよ、あたしには夢があるんだからね」
「いいなぁそういうの。まぁでも奈々なら余裕でしょ。成績優秀なんだし」
「優秀じゃないない」
「このガリ勉め」
「ガリ勉じゃないし」
成績が良くなったのも、本当は駿くんのおかげなんだ...。
あたしこれから先頑張れるかな。
「あたしさ、」
「んー?」
「駿くんと付き合って成績良くなったんだよね」
「なんで?」
「付き合った初めは...駿くんに絶対負けたくないって思って必死に勉強したんだ」
「そう言えば北見くん頭良かったね」
「そうなんだよね。負けるの悔しくてさ。それで成績上がっていって、」
「なるほどね、」
「それで、好きな人との将来を想像するの」
「将来?」
「うん、一緒に生活することになったらある程度のお金は必要になっちゃうし」
「...」
「好きな人と一緒に暮らしたいって思えば、今の勉強頑張らなきゃって思っちゃって」
「それで更に学力アップってわけね」
「うん...好きな人のためなら頑張れるじゃん」
「そうだよね...奈々頑張ったよね...」
「...うん...自分の為だけだったらここまで努力出来ないよあたし」
「う...ななぁー」
「ちょっ、泣かないでよ」
「泣いてないよー」
香は涙目になりながらもそう言った。
「でもあたし3年でも頑張るよ。順位はキープしておきたいしね」
本当は...
高校卒業して、短大行って、
大学に行く駿くんを2年間待ちながら働いて、
それから駿くんが大学卒業したら
一緒に住んで結婚して。
そう一緒に話してたのになぁ...。
あたしもそうなるって思ってたのに...。
辛いね...。
「北見くんの写真とかいっぱいあるんじゃない?」
「...ある...」
「消してないんだね」
「うん...」
まだいまは...消せない...。
泣けてくる。
やっぱあたしふっきれてないなぁ。
「ゆっくりで大丈夫だよ」
「うん...ありがとう」
後悔してるわけじゃない...でもまだ...
好きなんだね...。
駿くんのこと。