シークレットポイズン
* * *
「…有り得ない…何でこんなに体調悪いの…。」
美樹は机にへばりついていた。4月21日。新体制で始まった小学校という現場ももう3年目となり、学年は持ち上がりの2年生だ。子供の顔はわかっているし、新学期準備だって滞りなく終わった。それなのに、まだ帰れない。時計は無情にも8時半を差していた。
「美樹ちゃんこれ使う?」
「わー…ありがとうございます。げほっ…ごほ…。私印刷しま…。」
「いいよー。美樹ちゃんが暇な時にはお願いするから。」
「す…すみません…。」
学年主任の坂上はベテランの女性だ。今年は美樹と一緒に2年生の学年を組んでいる。さばさばしていて、教育への情熱は熱い。
「それにしてもなかなか治んないなー、美樹ちゃん。」
「…すみません…げほっ…。」
咳がなかなか抜けない。声が枯れているわけでもないのにだ。しかも、一度咳をすると止まらない。咳の量が多くて体はへとへとだ。
「この時期、安全は大変よね。」
「…初めてなんで、より効率が悪くて。」
教師という仕事は、ただ子供と触れ合っていればいいわけではもちろんない。子供の学習に関することの一切を受け持つと同時に、学校という組織を動かしていくパーツを職員で担っていく。その一つが『安全』であり、避難訓練や集団下校など、学校の安全に関わる運営の一切を任された仕事である。美樹も学校の仕事は色々と受け持ってきたが、学校全体を動かす仕事は実は初めてである。しっかりやりたいという気持ちと、この体調の悪さのマッチングが最悪だ。
「東さん、手伝おうか。集団下校の方。」
「…だいじょぶです。」
「全然大丈夫そうじゃないけど。」
そう言って少し心配そうな顔をするのは美樹の同期の深山だ。2歳年上の深山とは仲が良く、背中を預けて戦うとしたら今は深山が一番いいと美樹は密かに思っているくらいには信頼している。
「深山っちにお願いして私は帰るけど、くれぐれも無理しすぎることのないよーに。」
「…すみません…。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした!」
職員室に残るのは美樹と深山と、新人後輩だけだ。
「…有り得ない…何でこんなに体調悪いの…。」
美樹は机にへばりついていた。4月21日。新体制で始まった小学校という現場ももう3年目となり、学年は持ち上がりの2年生だ。子供の顔はわかっているし、新学期準備だって滞りなく終わった。それなのに、まだ帰れない。時計は無情にも8時半を差していた。
「美樹ちゃんこれ使う?」
「わー…ありがとうございます。げほっ…ごほ…。私印刷しま…。」
「いいよー。美樹ちゃんが暇な時にはお願いするから。」
「す…すみません…。」
学年主任の坂上はベテランの女性だ。今年は美樹と一緒に2年生の学年を組んでいる。さばさばしていて、教育への情熱は熱い。
「それにしてもなかなか治んないなー、美樹ちゃん。」
「…すみません…げほっ…。」
咳がなかなか抜けない。声が枯れているわけでもないのにだ。しかも、一度咳をすると止まらない。咳の量が多くて体はへとへとだ。
「この時期、安全は大変よね。」
「…初めてなんで、より効率が悪くて。」
教師という仕事は、ただ子供と触れ合っていればいいわけではもちろんない。子供の学習に関することの一切を受け持つと同時に、学校という組織を動かしていくパーツを職員で担っていく。その一つが『安全』であり、避難訓練や集団下校など、学校の安全に関わる運営の一切を任された仕事である。美樹も学校の仕事は色々と受け持ってきたが、学校全体を動かす仕事は実は初めてである。しっかりやりたいという気持ちと、この体調の悪さのマッチングが最悪だ。
「東さん、手伝おうか。集団下校の方。」
「…だいじょぶです。」
「全然大丈夫そうじゃないけど。」
そう言って少し心配そうな顔をするのは美樹の同期の深山だ。2歳年上の深山とは仲が良く、背中を預けて戦うとしたら今は深山が一番いいと美樹は密かに思っているくらいには信頼している。
「深山っちにお願いして私は帰るけど、くれぐれも無理しすぎることのないよーに。」
「…すみません…。お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした!」
職員室に残るのは美樹と深山と、新人後輩だけだ。