シークレットポイズン
「…安全ってよくわからないんですけど。」
「うん。私も実は正直よくわかってないけど。」
「え、そうなんですか?」
「うん。多分ね、その分掌の全てをわかって仕事してる人ってその仕事を長いこと極めてきた人だけじゃないかなぁ。私なんてフラフラしてて、専門もないよ。」

言ってて虚しくなった。小学校の教師では専門も何もあったもんではない。それなのにそれぞれの教師が何となく専門をもつようになる。美樹といえばその専門も決まらずにフラフラと彷徨っている。

「安全は初めてって言ってましたもんね。」
「うん。大変そうだなーとは思ってたけど、多分今だけだから。」
「そうなんですか?」
「多分だけど。4月は避難訓練に集団下校があって、特にうちの地域は複雑にわかれてるから。」
「僕、職員会議の提案でしたっけ?あれ読んでもほとんど意味がわからなくて。」
「あはは。だよね、私もそうだった。わからないところは会議中は無理だけど、他の時間なら教えられるよ。聞いて?」
「はい、ありがとうございます。」

笑うと幼くなる。いや、もちろん元々童顔ではあるのだけれど。

「…何となく、わかってもらえたかな?私のこと。話しかけにくい先輩ではないということだけ、ちゃんとわかってもらいたいんだけど…。」
「それは、大丈夫です。今日というか今で大分、話しやすいってわかったんで。」
「仕事中はね、どうしてもモードがオンで何ていうか情けない話、あんまり余裕がないので…。でも反省した!これからは話しかけやすくなれるように努力するから。」
「必死すぎですよ、大丈夫ですって。」

そう言って笑う藤澤は、何だか爽やかだ。そして若いなと思う。2年前の自分はこんなにフレッシュだっただろうか。藤澤と話をしたり、藤澤への接し方を考えたりすると必然的に2年前、つまりは自分の初任の頃が思い出される。

「運動会は担当同じだし、頑張ろうね。」
「はい。よろしくお願いします。」
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