mariage
…もう一度触れたい。

息苦しさは耐えられない。

でも、触れたい。

複雑な気持ちが入り混じる。

「…琴乃」

ビクッ。

突然名前を呼ばれ、体が震えた。

返事をすることも無く、視線だけを秀吾に向ける。

「今月中に、ここに引っ越して来い」

そう言うと、私の手に、小さなメモを手渡した。

そこには、高級マンションの名前と住所が書かれていた。

…ここは一体?

困惑したままメモから秀吾に目を向けると、話を続ける。

「…式は来月だ。その前に、俺の住むマンションに来い」

「で、でも」

「…聞き分けのない女は、嫌いだと言ったはずだ」

「…」

黙り込んだ私に納得したのか、秀吾はポケットから鍵を取り出すと、私に渡した。
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