mariage
触れたい。そうは思っていたものの、いざ触れられると、固まってしまう。

…掴まれた手に視線を落とし、再び秀吾を見ると、鍵が入っていた方とは逆のポケットから、小さな宝石箱を取り出し、それを開けた。

その箱の中身に目が釘付けになる。

…無理もない。

何カラットかは不明だが、大きなダイヤが付いた指輪だった。

ただただ、秀吾の行動だけを見つめる。

すると、秀吾はその指輪を、何の迷いも無く、私の薬指にはめてしまった。

「…ぇ」

「…婚約指輪だけは、俺が決めた。気に入らなければはめなくていい」

無表情なまま、そう言って私を見つめる。

困惑しつつも、小さな声で呟いた。

「…ぁりがとう、ございます」
「…⁈」

予想外だったのか?

秀吾は礼を言われ、驚いた顔をした。

「…あの、おやすみなさい」

私はそう言うと逃げるように車から降りると、家の中に入って行った。
< 15 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop