mariage
…この声は知ってる。

…この手も。

私は、そっと顔を後ろに向けた。

「…鮫島さん」
「…鮫島、秀吾」

私と、千影の声が重なった。

「…行くぞ、琴乃」
「鮫島さん」

私のカバンを片手に持ち、もう片方の手は、私の手を掴んで連れて行く。

そんな私達の後方から、千影の声が聞こえた。

「仕事の為なら、一人の女性を傷つけてもいいのか?」

その言葉に、秀吾の足が止まる。

「好きじゃないなら、手を引け鮫島」

秀吾は顔だけを千影に向けると、キッと睨みつけた。

「知った風な口を利くな。部外者が口を挟むことじゃない」

そう言い捨てると、私を連れてラウンジを出た。

…。

ホテルの外にある駐車場。

秀吾の車。…さっきまで一緒に居たはずの美女は?

私は、秀吾の手を払いのけた。
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