mariage
当たり障りのない言葉を並べて、笑顔を作る。

「…琴乃さん」

そんな私を、疑いの目で見つめながら、名前を呼んだ大路。

「…なんでしょうか?」
「…いえ、なんでもありません」

それだけ言って、溜息をついた大路は、書類を担当者に私と早足で秘書室へ帰る。

私もそれに遅れないように、付いていくも、頭の中は、彼女の事ばかり。

…まさか、秀吾と同じ会社に勤めているとは、夢にも思わなかった。

しかも、彼女のポジションは、結構重要なポジションだ。

容姿端麗、仕事も出来る彼女に、何一つ、勝てる気がしなかった。

「…琴乃、まだいたのか?」
「…え?」

事務や雑務はしっかりこなしつつも、心ここに在らずだった私。

大路が先に帰っている事にも気づいていなかった。
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