mariage
困惑顔の私の背中を押すと、大路はいつものように、仕事を始めてしまった。

…仕方がない。行くしかない。大路に迷惑ばかりかけるわけにはいかない。

社長室のドアをノックし、中に入る。秀吾はデスクで仕事をして、こちらを見ようともしない。

「…社長、おはようございます」
「…遅刻だな」

昨日の事は何も言わない。

「…すみません。…仕事はしっかりこなしますので…失礼します」

頭を下げる。

「…待て」

その言葉に、体が萎縮する。怖い。一分一秒でも早く、ここから立ち去りたかった。

秀吾の言葉を無視して、ドアに手をかけた。

…ギュッと、大きな手が、ドアノブを握る私の手を握り締めた。

「…待てと言ったのが聞こえなかったか?」
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