mariage
いつもと違う、低い声に、更に小さくなる。

上目遣いに秀吾を見上げると、怒った顔をしていて、思わず目を背けた。

「…昨晩はどこにいた?」
「…それは…それは、秀吾さんには、関係のない事です」

後ろめたさがありつつも、強い口調でそう言った。…だって、そうだ。

私と秀吾は婚姻関係にない。赤の他人も当然なのだ。

籍も入れてない。嘘の夫婦。

そう思うと、また涙が浮かぶ。涙を流すまいと、下唇を噛み締める。

そして、精一杯の睨みをきかせる。

「関係ないだと?正真正銘の夫婦だというのにか?」

「…正真正銘?籍も入れてないのに、夫婦な訳がないじゃないですか?」

…売り言葉に買い言葉。睨み合い、私の涙腺は崩壊寸前だった。

瞬きをしてしまえば、溜まった涙は、必ず流れ落ちる。
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