白衣とエプロン 恋は診療時間外に
私が顔を洗って着替えてキッチンへ戻ると、ご飯もちょうど炊きあがって、彼がせっせとおかずの用意をしているところだった。

「私、何したらいいです?」

「じゃあ、今から目玉焼きを作るから見ていて」

「へ?」

「記念すべき瞬間、でしょ?」

「はいっ」

私が固唾をのんで見守る中、彼が熱したフライパンに卵を割って落とすと――。

「うわーっ、本当に双子だ!」

歓声をあげるギャラリー(?)へのサービスのように、彼が続けて卵を割り落とす。

「では、もう1つ」

「うおーっ、やっぱり双子だ!」

(これすごい!本気ですごい!)

生まれて初めてみる光景に感動しきりの私に、彼はすっかりご満悦だ。

「ご堪能いただけて何より」

「ほんっとうに、ニコニコですね!」

「ニコニコだね」

水を入れてフタをして、とりあえず一息と思った瞬間、お菓子棚(お菓子をしまっておく定位置をそう呼んでいる)の野菜クッキーが目に入った。

(あ、そうだった!)

「秋彦さん」

「うん?」

「朝顔のリボン、ありがとうございます」

「ああ、あれのことか」

「びっくりしちゃいました。むらさき芋のやつですよね」

「そう。ちょうどいいなと思って」

「すっごいちょうどいいです」

「おまじない、なんてね」

「え?」

「薄紫色の花が咲きますように」

彼はくすりと笑うと、横から私を抱きしめた。

「今日のスカート、このあいだ買ったやつだよね?」

「そうですそうです」

今履いているスカートは、彼と一緒に買い物へ出かけたときに買ってもらったもの。

買ったお店はパジャマを買ったあのお店で、ベランダのサンダルも結局そこで買ってもらってしまった。

こう言ってはあれだけど、彼は本当に私の扱いが上手というか。

「買ってあげる」とか「買ってあげようか?」などという言い方は決してしない。

「履いてもらえる?」とか「着てもらえない?」とか、そういう聞き方をしてくるから……。

しかも、すすめてくる商品は絶対に私の好みを外さないのだもの。

「生地の感じがとっても素敵で、すごく履き心地がいいです」

「そう? ならよかった」

瞬間、耳元に甘い気配が近づいて――。

「よく似合ってる」

「あぁっ……」

囁く声に、思わずびくんと反応する。

(もう、油断するとすぐそういうことするから……)

「可愛いよね」

「可愛いスカートですよね」

「意地悪だなぁ」

「どっちがです?」

「意地悪な千佳さんも可愛いです」

「もう……」
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