白衣とエプロン 恋は診療時間外に
彼は写真を懐かしそうに眺めながら、丁寧に話してくれた。
「春兄は後継ぎとしての使命感に燃える長男で、キャラ的には俺様わがまま王子かな」
「わがまま王子、ですか???」
「本当は気にしいの神経質なんだけどね」
「あー、このお写真からも想像できる気が……」
あくまでも写真のイメージだけれど、ちょっと細かい理系男子、みたいな?
「冬衛は末っ子らしく甘やかされて育ったというか、放っておかれて育ったというか。社交的で要領が良くて、兄弟の中で1番頭がいいんじゃないかな」
「麗華先生もそんな感じのことを仰ってました」
「あいつは甥っ子とも仲がよくてさ。まあ、小児科医だからね。慣れも興味もあるんだろうけど」
「甥っ子さんというのは、春臣さんの?」
「そうそう、春兄の一人息子。まだ小学生」
「そうなんですね」
長男の春臣さんとは対照的に、おおらかで柔らかい印象の冬衛さん。
春臣さんがいかにもな理系男子なら、冬衛さんは誤解を恐れずにあえて言うなら、ちょっとチャラい文系男子のような?
「雰囲気は、春臣さんと秋彦さんが似ていて、夏生さんと冬衛さんが似ている感じ、でしょうか?」
「そうかもしれない。夏兄も冬衛も当たりがソフトだからね」
彼はあらためて納得したという表情で、写真をしげしげと眺めた。
「秋彦さんだって、当たりがきついということはないですよ」
「君は優しいな」
「本当なんですから」
私がわざとむすっとした顔をすると、彼は少し決まり悪そうに微笑んだ。
「まあねえ、兄弟の中では僕と夏兄が一番仲がよかったと思うよ」
「そうなんですか?」
「うん。夏兄は真面目で気が優しくて。冬衛とかと違って要領はあまりよくなくてさ」
「麗華先生も兄弟で一番優しい人だと仰っていましたよね」
「そう。兄弟げんかの仲裁役はいつも夏兄で。こういう言い方はあれだけど、春兄と冬衛は良くも悪くも頭がいいからズルいところもあって、貧乏くじを引かされそうになるのは夏兄か僕で。最後は決まって夏兄が泥をかぶってくれちゃう、みたいな」
「あー、なるほどですね」
写真の中で微笑む夏生さんは、とてもとても優し気で、どこか少し――儚げに見えた。
「四人もいると、けんかもチーム戦になったりしてさ。そういうときは必ず――」
「春臣さん冬衛さんチームと、夏生さん秋彦さんチーム?」
「そうそう。で、僕はしつこいというか頑固なところがあるから引かなかったりするんだけど、夏兄が“もうやめようよっ”って言い始めるもんだから、いつもなんだか負けてしまうという」
「秋彦さんも夏生さんに言われたら仕方がないって感じだったんでしょうね」
「そうだね。そんな感じで、僕は兄弟の中で夏兄に一番近いのは自分だと思って育ってきたわけなんだけど……」
そこまで話すと、彼はフォトフレームをテーブルに置いて、お茶を飲んで一区切りつけた。
そうして、今度はポケットからスマホを取り出した。
「夏兄の最近の写真を見てもらっていいかな?」
「あ、はい。もちろん」
彼が人差し指でスマホの画面を叩きながら「どこだっけなぁ」と写真を探す。
「ちょうどこの家で僕が撮った写真でさ。夏兄と恋人さんとグレが写ってるんだけど……」
「恋人さんとグレちゃんと、ですか?」
「うん。もともとグレは夏兄が飼っていたんだ……って。あったあった、この写真だよ」
彼が見せたくれた写真には、おそらく四十代半ばくらいの男性と、笑顔が麗しいロングヘア―の女性が写っていて。
グレちゃんはお利口に女性の腕に抱かれていた。
「あの、この写真って……」
「その男性が夏兄でないことはわかるよね?」
「はい……」
麗華先生の結婚式の写真が最近のものではないからといって、ここまでの変わりようがあるわけがない、まったくの別人だもの。
そして、女性のほうはというと、まったくの別人というか、別人ではないというか――。
「グレを抱っこしているのが、今の夏兄だよ。見てのとおり、兄というより姉なんだけど……」
「春兄は後継ぎとしての使命感に燃える長男で、キャラ的には俺様わがまま王子かな」
「わがまま王子、ですか???」
「本当は気にしいの神経質なんだけどね」
「あー、このお写真からも想像できる気が……」
あくまでも写真のイメージだけれど、ちょっと細かい理系男子、みたいな?
「冬衛は末っ子らしく甘やかされて育ったというか、放っておかれて育ったというか。社交的で要領が良くて、兄弟の中で1番頭がいいんじゃないかな」
「麗華先生もそんな感じのことを仰ってました」
「あいつは甥っ子とも仲がよくてさ。まあ、小児科医だからね。慣れも興味もあるんだろうけど」
「甥っ子さんというのは、春臣さんの?」
「そうそう、春兄の一人息子。まだ小学生」
「そうなんですね」
長男の春臣さんとは対照的に、おおらかで柔らかい印象の冬衛さん。
春臣さんがいかにもな理系男子なら、冬衛さんは誤解を恐れずにあえて言うなら、ちょっとチャラい文系男子のような?
「雰囲気は、春臣さんと秋彦さんが似ていて、夏生さんと冬衛さんが似ている感じ、でしょうか?」
「そうかもしれない。夏兄も冬衛も当たりがソフトだからね」
彼はあらためて納得したという表情で、写真をしげしげと眺めた。
「秋彦さんだって、当たりがきついということはないですよ」
「君は優しいな」
「本当なんですから」
私がわざとむすっとした顔をすると、彼は少し決まり悪そうに微笑んだ。
「まあねえ、兄弟の中では僕と夏兄が一番仲がよかったと思うよ」
「そうなんですか?」
「うん。夏兄は真面目で気が優しくて。冬衛とかと違って要領はあまりよくなくてさ」
「麗華先生も兄弟で一番優しい人だと仰っていましたよね」
「そう。兄弟げんかの仲裁役はいつも夏兄で。こういう言い方はあれだけど、春兄と冬衛は良くも悪くも頭がいいからズルいところもあって、貧乏くじを引かされそうになるのは夏兄か僕で。最後は決まって夏兄が泥をかぶってくれちゃう、みたいな」
「あー、なるほどですね」
写真の中で微笑む夏生さんは、とてもとても優し気で、どこか少し――儚げに見えた。
「四人もいると、けんかもチーム戦になったりしてさ。そういうときは必ず――」
「春臣さん冬衛さんチームと、夏生さん秋彦さんチーム?」
「そうそう。で、僕はしつこいというか頑固なところがあるから引かなかったりするんだけど、夏兄が“もうやめようよっ”って言い始めるもんだから、いつもなんだか負けてしまうという」
「秋彦さんも夏生さんに言われたら仕方がないって感じだったんでしょうね」
「そうだね。そんな感じで、僕は兄弟の中で夏兄に一番近いのは自分だと思って育ってきたわけなんだけど……」
そこまで話すと、彼はフォトフレームをテーブルに置いて、お茶を飲んで一区切りつけた。
そうして、今度はポケットからスマホを取り出した。
「夏兄の最近の写真を見てもらっていいかな?」
「あ、はい。もちろん」
彼が人差し指でスマホの画面を叩きながら「どこだっけなぁ」と写真を探す。
「ちょうどこの家で僕が撮った写真でさ。夏兄と恋人さんとグレが写ってるんだけど……」
「恋人さんとグレちゃんと、ですか?」
「うん。もともとグレは夏兄が飼っていたんだ……って。あったあった、この写真だよ」
彼が見せたくれた写真には、おそらく四十代半ばくらいの男性と、笑顔が麗しいロングヘア―の女性が写っていて。
グレちゃんはお利口に女性の腕に抱かれていた。
「あの、この写真って……」
「その男性が夏兄でないことはわかるよね?」
「はい……」
麗華先生の結婚式の写真が最近のものではないからといって、ここまでの変わりようがあるわけがない、まったくの別人だもの。
そして、女性のほうはというと、まったくの別人というか、別人ではないというか――。
「グレを抱っこしているのが、今の夏兄だよ。見てのとおり、兄というより姉なんだけど……」