白衣とエプロン 恋は診療時間外に
午前の診療は思いのほか長くかかった。

麗華先生と唐木さんが外出したので、残ったスタッフで遅い昼休憩をとろうとしていると、桑野先生がやってきた。


「あー、今日は本当に疲れましたよー。あの親子、最悪っスよ」


スタッフルームに入るなり、桑野先生は愚痴りはじめた。


「子どもにきちんと言い聞かせるのが親の仕事なのに、完全に丸投げっておかしいでしょ!」


こうして桑野先生が愚痴りにくるのは、それほどめずらしいことじゃない。

私たちスタッフはもう慣れっこだ。

先生はただ「うんうん」と話を聞いて甘やかして欲しいだけで、決してアドバイスを求めているわけじゃない。

その証拠に、麗華先生や唐木さんがいるときには絶対に来ないのだから。

上司である麗華先生にはもちろん、若い桑野先生はベテラン看護師の唐木さんにも頭が上がらないのだ。

そりゃあ、誰だって愚痴を言いたいときはある。

人間相手の仕事はストレスも多いし、ドクターは特にミスが許されない。

でも、自分が患者さんの立場だったら――やっぱり嫌だな。

こんなふうに病院の人たちの話題にされちゃうなんて。

そう思うから、私は「うんうん」と桑野先生に同調できない。

もちろん、たしなめるようなこともしない(できない)けど。
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