白衣とエプロン 恋は診療時間外に
福山さんは、あからさまな貴志先生狙いだ。

貴志先生はまるで絵に描いたようなイケメンドクターだもの。

女性の患者さんにもファンは多いし、先生を狙っているのは彼女だけではない。

福山さん的には、こうして公言することで院内のライバルだけでも牽制しようという作戦らしいけど。

「せめて桑野(くわの)先生ならなぁ。ちょっとは癒されるのにぃ」

この人、職場に何しにきてるんだろ……。

私はわざとちょっと冷たく言った。

「それは残念でしたね」

「でしょお? 本当にもうっ」

彼女に嫌味は通じなかったらしい……。


ここ、カトレア耳鼻咽喉科クリニックには現在4人のドクターが勤務している。

4人とっても、当院は2診制で診療しているので、基本的に4人全員が揃うことはない。

医師の内、女性は院長の麗華先生だけ。

あとの3人は男性で、貴志先生と保坂先生は30代、桑野先生はまだ20代。

しかも、全員独身ときた。

ちなみに、ドクター以外のスタッフはすべて女性。

私こと清水千佳(しみずちか)もそのひとりで、医療事務スタッフとして勤め始めて半年ほどになる。

半年といっても、新卒で入ったわけではないので年齢は27歳。

ちなみに前職は、こことはまったく別業種で男性ばかりの職場だった。

そういったこともあってか、ここの雰囲気に慣れるまでは戸惑うことも多かった。

白状してしまうと、そもそも私は女子の社交というやつが得意ではないし。

今だって、慣れたとはいえ馴染めているかと言うと……。

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