白衣とエプロン 恋は診療時間外に
この居心地のよさは何なんだろう?
夢中になってグレちゃんと遊んでいた私はすっかりパジャマのままだった。
テーブルに並んでいるのは、焼き鮭に卵焼きにお味噌汁という純和風の朝ごはん。白米ではなく雑穀米なのは、先生ってけっこう体に気を遣っているのかな?
ダイニングテーブルの足元では、グレちゃんが小鉢に盛られたカリカリ(ドライフードのことをそう呼ぶらしい)を熱心にハグハグ食べている。
「じゃあ我々も食べましょうか」
「あ、はい」
「いただきます」
「いただきますっ」
あったかいお味噌汁が空腹にしみて、エネルギー切れの体にみるみる力が満ちてくる。
「美味しいです、とっても」
「それはよかった」
本当に、こんなによくしていただいて感謝してもしきれないくらい、なのだけど――。
それはそうと、私はさっきからずっと“あること”が気になって仕方がなかった。
「清水さんはその色がよく似合いますね。ミントグリーン、でしたっけ?」
私のパジャマのことはさておいて、先生のそのフリルのエプロンはご自身のお好みなのですか……。
心の中で、質問に対して質問で返す私ですよ。
だって、先生がスモークブルーのパジャマの上にしているのはフリルつきの純白のエプロンなんだもの。
明らかに女性モノ、だよね。
かなり突っ込みどころが満載なんだけど、先生本人はぜーんぜん気にしていないみたいで。
だから聞くに聞けなくて……。
まさか自宅用に自分で買ってきたなんてことはないだろうし……じゃあ、どうして?
実家から持ってきたとか?(わざわざ?)
お兄さんが置いていったとか?(お姉さんじゃないよ?)
じゃあやっぱり、先生の彼女さんが……。
でも、彼女がいたらいくら人助けとはいえ私を家に泊めたりなんてできないよね。
だとしたら、元カノさんの……?
元カノが置いていったエプロンを今でも愛用しているとしたら、先生は今でもその人のことが……。
「クリニックのエプロンと同じ色ですよね」
「えっ」
はっとして顔を上げると、先生がいつもの飄々とした表情でこちらを見ていた。
嫌だなもう、私ってばぼんやりしちゃって……。
とりあえず、脳内タダ漏れ現象がおきなくてよかった。