白衣とエプロン 恋は診療時間外に
それにしたって、なんという“怒涛の週末”だろう。

いきなり元カレが現れたかと思えば、厄介事に巻き込まれそうになって。

そんなところを、保坂先生に助けてもらって。おまけに、拾ってもらって……。

さらにさらに、今はこうして先生の車に乗せらせて、休日のドライブよろしくお出かけしているという――。


「清水さんは乗り物に酔うタイプですか?」

「まったくです」

「ならよかった」


先生はそう言いうと、前を見てハンドルを握ったまま、心なしかほっとした表情をみせた。


「子どもの頃、僕はわりと酔ってしまうタイプで」

「そうなんですか?」


子どもの頃の保坂先生……。

昨夜ちょっと話したときに、お兄さんが二人いるらしいことは聞いたけど。職場ではプライベートを一切語らない保坂先生は謎が多い。そんな先生の私生活に、なりゆきとはいえ踏み込んじゃっているのだもの。やっぱり、私のこの状況ってすごいと思う。


「正直、長距離のバス遠足などは少々憂鬱でした。ただ、僕は予防ができていたので、あまり辛い思いをしたことはないんです」

「そういえば、乗り物酔いの相談で受診される患者さんもいますよね。えーと……」

「動揺病です」

「そうそう、それでした」

「乗り物酔いは、乗り物での移動の際に起こる自律神経失調状態で、“めまい止め”などを飲むことで予防できるんです」

「なるほどです」

「だから、子どもの患者さんが来てくれると嬉しいというか、ほっとするんです。あの辛さを回避させてあげられますから」


患者さんの中には、保坂先生のことを「怖そう」という人がときどきいる。そういう声を聞くと、私はすごく残念でなんだか悔しい気持ちになる。

本当はすごく優しいのに。誰よりも、患者さんのことを考えているのに。なのに、愛想がないから、もうっ……。


「さて。パジャマが買えるところに着きました」


“恩返し”という名の奇妙な買い物ツアーの目的地は、半年くらいまえにできたという比較的新しいアウトレットモールだった。


「先生、もっと近場でもパジャマは買えたと思いますけど……」


さも“ここでしか買えない”ような口ぶりがおかしくて、思わずくすりと笑ってしまう。

けれども、先生は頑として言った。


「いや、ここでしか買えないパジャマでなければ」

「はぁ……」


先生は私をどんな店に連れて行こうというのだろう。いったい、この“居候ネコ”にどんなパジャマを買い与えるつもりでいるのだろう。

保坂先生って、やっぱりすごく謎だと思う。不思議すぎ。

そして、そんな不思議加減が病みつきになりそうだということは、グレちゃんにも内緒にしておこう……。

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