白衣とエプロン 恋は診療時間外に
先生に連れられてやってきたのは、とってもお洒落な生活雑貨のお店だった。

ううん、お洒落というより“優雅”といったほうがいいのかな? 

私の知らない海外ブランドのお店で、商品は文句なく素晴らしいのだけど、お値段は……可愛くない。

ハイセンスとか、ハイクラスとか、いかにもそういう感じのお店だった。

フロアはとても広々で、雑貨屋さんにありがちな“ごちゃついた感じ”がいっさいない。

解放感たっぷりのゆとりある空間は、ちょっぴりセレブ御用達という雰囲気だった。


「せっかくなので、色々と見ていくといいですよ。パジャマ以外で必要な物も買いそろえて行きましょう」


先生はご機嫌な様子でそういうと、一人でずんずんフロアの奥へ行ってしまった。


(どうしよう。ここ、なんだかすごく高そうなお店なんだけど……)


申し訳ない気持ちと、明らかに場違いな自分に戸惑う気持ち。

とにかくゆっくり店内を見て回る気にはなれなかった。

まさに挙動不審といった感じで辺りをきょろきょろ。

すると、何やら見覚えのある商品が目に留まった。


(あれ? このエプロンって、もしかして?)


おすすめのキッチン用品と一緒にディスプレイされていたのは、今朝ほど保坂先生がつけていた“あのエプロン”のようだった。

手の込んだカットレースの感じといい、目立たないところにさりげなくあしらわれたワンポイントといい、間違いない。


(そっか。保坂先生、やっぱりまえにこのお店に来たことが……って、当たり前だよね)


先生の足取りは迷いがなかったし。なんとなくではなく、ここへ来る気で来たのだから。


(でも、ここって男性一人でふらりと来るようなお店じゃないよね)


そう思うと、頭の中でいろいろな考えがふくらんだ。

先生は、いったい誰とここへ――?

すると、お店の奥で店員さんが保坂先生に話しかける明るい声がした。


「まあ、いらっしゃいませ。今日はお一人で?」

「いえ、友人と一緒に」


先生が辺りを見回して私を探すそぶりをしたので、思わずささっと身を隠す。


(私、何やってんだろ。堂々としていればいいのに、“友人です”って……)


けどやっぱり……「今日はお一人で?」ってことは、前に来たとき誰かと一緒だったわけだよね。なんだか、確定されちゃった。彼女だったかどうかは……わからないけど。少なくとも、グレちゃんではないでしょうし。


(どうかしてるな、私)


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