白衣とエプロン 恋は診療時間外に
結局、いつまでも逃げたり隠れたりしているわけにもいかず……。


「おや、こんなところにいましたか」

「いましたね……」

「グレじゃないんですから。ほら、カーテンにからまっていないで行きますよ?」

「はい」


先生と一緒にパジャマコーナーにくると、あることにすぐ気がついた。


「あ、これって――」

「そうなんです。僕もここのを愛用しているんですが、とっても着心地がいいんですよ。だから、清水さんにも」

「えっ……」


先生とお揃いのパジャマだなんて、なんかそんな……うん。それに、値段も値段だし。そりゃあ、先生の感覚だと「適当」なのかもしれないけど、私にはとても……。


「あの、私やっぱりいいです。申し訳ないです。お気持ちだけでもう、本当に……」

「気に入りませんか?」


保坂先生が心配そうな残念そうな表情で私を見る。


「気に入らないだなんてそんなっ」

「ではなぜ?」

「だって、もったいないですよ。こんな素敵なパジャマ、居候ネコなんかに……」

「居候ネコ???」

「あ゛……」


どうしてこうやって私の思考はダダ漏れてしまうのだろう……。けど、漏れてしまったものは仕方がない。開きなおるしかない。


「だって、居候ネコですから、私」


自分で言いながらも、なんだかしゅんと淋しくなる。なぜだろう、こんな気持ち……。こんな言い方、まるで不貞腐れているみたいじゃない、聞きようによっては。


「なら、うちの猫になる?」

「えっ」

「なったらいい」


保坂先生は淡々と言い放った。


「うちの猫になってしまえば問題ない。飼い主が愛猫のために買ってやって何が悪いという話だ」

「ええっ」


何がなんだかわからない。だって、先生のうちの猫になるって――それって、その意味って……?


「あのっ……」

「あ。ちょっと失礼」


絶妙なタイミングで先生のスマホがなり、ちょうど話がぶった切られる。画面を見た先生は、何やら急に表情を険しくしてつぶやいた。


「まずいな……」

「え?」

「いや、こちらの話です。すまないが、話はまた後でゆっくり」


すると、先生は私をその場に残して、何やら慌てた様子で通話できそうな場所へ行ってしまった。
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