白衣とエプロン 恋は診療時間外に
けど、今はその評価を期待値として素直に受け取っておきたかった。


「私でよろしければ」

「助かります。小さい子がちょろちょろしていると危ないので」

順番だと今日の補助は福山さんなんだけど。

まあ、彼女だって貴志先生のいない診察室よりは受付のほうがいいだろう。


「いつでも遠慮なく声をかけてください」

「楽(らく)」

「え?」

「楽させてください、僕に」


保坂先生、やっぱり聞いていたんだ……。

でも、怒ってはいないみたい。

むしろ、私の気のせいでなければ、この状況をどこか楽しんでいるような……???

ま、表情が乏しいんで結局は真意なんてわからないのだけど。

ちょっと嫌味なような? 

ほんのり意地悪なような? 

そんな気もしないではない。

けど、やっぱり――思いやりなんだと思う。

「仕事で返せばそれでいい」という、保坂先生らしい暗黙の優しさなのだ、と。


「先生に楽していただけるよう頑張ります」

「よろしくお願いします」


きっともうこの件について、保坂先生が何か言うことはないんだろうな。

私にも、福山さんにも。

そして、他のスタッフにも。

これが桑野先生なら「福山さんにひどいこと言われたんすよー」などと吹聴しそうなものだけど。

保坂先生は――どうしていつも平らかな心でいられるのですか?

傷ついたり憤りを感じたとき、その気持ちをいったいどこへやるのですか?

そんなことをぼんやり思いながら、私は白衣を羽織ってさっさと診察室へ向かう保坂先生の背中を見つめていた。


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