白衣とエプロン 恋は診療時間外に
飼い主様のオカンな溺愛
私が保坂先生のうちの“正式な”ネコになって、一週間以上が過ぎていた。
「あら、清水さんは今日もおにぎり持参?」
「えっ」
お昼休み。福山さんの言葉に思わずぎくりとする。
「あの、えーと……今月ちょっとピンチで」
「そうなんだぁ。大変ねぇ、一人暮らしは」
「ええ、まあ」
(私、変なところなかったよね???)
まさかまさか、この猫柄の可愛い巾着に入ったおにぎりたちが、保坂先生のお手製だなんて、誰も思わないよね?
お付き合いを始めてからというもの、保坂家のネコになった私は主(あるじ)である先生に溺愛されていた。
溺愛といっても、家では「いちゃこら」しっぱなしとか、そういう「すうぃーと」なやつではなくて。
「僕が休みの日は弁当を作るので持っていくといい」
「へ?」
その朝、私は思いがけない提案にきょとんとした。
「コンビニばかりじゃ味気ないだろうし」
「悪いですよ。お休みの日の朝くらい、ゆっくり寝ていてください」
「いや、君を送るにはいつもどおり起きるわけだし」
「ええっ」
可愛がられているというか、世話を焼いてもらいっぱなしというか。私は保坂先生の過保護でオカンな溺愛に骨抜きにされていた。
先生は、自分がお休みの日には私を職場の近くまで送ったうえ、おにぎりまで持たせてくれて。二人とも出勤の日は、帰りも待ち合わせて一緒に車で帰宅する。
お昼が「お弁当」ではなく「おにぎり」になったのは、素晴らしいお弁当を見られて色々と詮索されると困るから。おにぎりくらいだったら、私が作ったという言い訳も通るだろう、と。
本当は、お米だって高くて美味しいものだし、梅干しひとつとっても、お取り寄せの高級品だったりするのだけど。
(福山さんには気を付けなきゃ)
“保坂先生が休みの日に限っておにぎりだ”なんて、勘付かれたら大変だもの。彼女は、嫌味や皮肉が通じないわりに、ときどき変に鋭いから。
院内恋愛(?)は、内密に。
決して職場恋愛が禁止だなんてことはない。現に福山さんは貴志先生を本気で狙っているわけだし。彼女はいわゆる寿退職を見据えての計画らしいけど。
でも、私は……。
だって、付き合い始めたばかりだもの。先のことなんてわからない。考えられない。今はただ、二人の関係を大事に守ることだけしか。とりあえずしばらくは、職場のみんなには絶対バレないように。
みんなが最近評判だという新しいカフェにランチに出かけ、私は一人きりのスタッフルームでおにぎりを広げた。
(うわーっ、すっごく美味しそう!)
ほどよい大きさに握られた種類違いのおにぎりが三つ。私はありがたく手をあわせていただこうとした。すると――。
「あれ? 清水さん一人かい?」
「き、貴志先生っ」
「あら、清水さんは今日もおにぎり持参?」
「えっ」
お昼休み。福山さんの言葉に思わずぎくりとする。
「あの、えーと……今月ちょっとピンチで」
「そうなんだぁ。大変ねぇ、一人暮らしは」
「ええ、まあ」
(私、変なところなかったよね???)
まさかまさか、この猫柄の可愛い巾着に入ったおにぎりたちが、保坂先生のお手製だなんて、誰も思わないよね?
お付き合いを始めてからというもの、保坂家のネコになった私は主(あるじ)である先生に溺愛されていた。
溺愛といっても、家では「いちゃこら」しっぱなしとか、そういう「すうぃーと」なやつではなくて。
「僕が休みの日は弁当を作るので持っていくといい」
「へ?」
その朝、私は思いがけない提案にきょとんとした。
「コンビニばかりじゃ味気ないだろうし」
「悪いですよ。お休みの日の朝くらい、ゆっくり寝ていてください」
「いや、君を送るにはいつもどおり起きるわけだし」
「ええっ」
可愛がられているというか、世話を焼いてもらいっぱなしというか。私は保坂先生の過保護でオカンな溺愛に骨抜きにされていた。
先生は、自分がお休みの日には私を職場の近くまで送ったうえ、おにぎりまで持たせてくれて。二人とも出勤の日は、帰りも待ち合わせて一緒に車で帰宅する。
お昼が「お弁当」ではなく「おにぎり」になったのは、素晴らしいお弁当を見られて色々と詮索されると困るから。おにぎりくらいだったら、私が作ったという言い訳も通るだろう、と。
本当は、お米だって高くて美味しいものだし、梅干しひとつとっても、お取り寄せの高級品だったりするのだけど。
(福山さんには気を付けなきゃ)
“保坂先生が休みの日に限っておにぎりだ”なんて、勘付かれたら大変だもの。彼女は、嫌味や皮肉が通じないわりに、ときどき変に鋭いから。
院内恋愛(?)は、内密に。
決して職場恋愛が禁止だなんてことはない。現に福山さんは貴志先生を本気で狙っているわけだし。彼女はいわゆる寿退職を見据えての計画らしいけど。
でも、私は……。
だって、付き合い始めたばかりだもの。先のことなんてわからない。考えられない。今はただ、二人の関係を大事に守ることだけしか。とりあえずしばらくは、職場のみんなには絶対バレないように。
みんなが最近評判だという新しいカフェにランチに出かけ、私は一人きりのスタッフルームでおにぎりを広げた。
(うわーっ、すっごく美味しそう!)
ほどよい大きさに握られた種類違いのおにぎりが三つ。私はありがたく手をあわせていただこうとした。すると――。
「あれ? 清水さん一人かい?」
「き、貴志先生っ」