白衣とエプロン 恋は診療時間外に
あんまりベッドでする話じゃないなと思った。ちっともロマンチックじゃないし。

でも、こういう時間がひどく愛おしかった。

私の話を熱心に聞いてくれる生真面目な保坂先生。

他愛のない話で、くすくす笑い合って、ほっこりして、くっついて。

オトナの男と女が、だた寄り添って眠るだけ。

そうして癒しと安らぎに包まれながら、私は幾晩かをすごした。


(ああ、今夜はどうしよう)

先生はどう思っているんだろう? そりゃあ、先生だって男の人だし? でも……。

保坂先生って、考えが読めないとこがある。何でもあからさまに顔に出るってタイプじゃないし。

飄々と、淡々と、さらさらと。

肉食か草食かと問われれば、たぶん草食?

麗華先生は保坂先生のことを、押しの弱いヘタレみたいに言っていた。

でも、そういう臆病な感じを、私はとても好きだと思う。

きっと、先生の臆病さは相手を思いやってのことだから。

自分が傷つきたくないとか、そういう気持ちが先に立ってるわけじゃないと思うから。

(私は、どうだろう……)

ありのままの、素直な気持ちは? 先生に伝えたいこと、伝えなきゃいけないこと、いっぱいある――。


お風呂を上がって寝る支度を整えるまで、ずっとずっとそわそわしてた。でも、気持ちは決まっていた。

「先生」

先に寝室へ入っていた先生はやっぱり本を読んでいた。でも、私が来るとおもむろに本を閉じて、ドアを閉めたきり立ったままの私を見つめた。

「なんだろう?」

私はちょっと勇気を出して言った。

「あの、今夜はグレちゃんに遠慮してもらってもいいでしょうか……?」

本当、グレちゃんには申し訳ない。一緒に寝たいと言ったり、遠慮してと言ったり。

でも、先生にどんな言い方をすればいいか困ってしまって。

とりあえず「生理終わりました!」というよりは、ずっとましな伝え方ができた……はず?

それとも「勝負下着できました!」と申告したほうがよかった???

先生の反応はというと――。

(うぅ、やっぱりわからない)

あくまでも平常心。驚くでもなく、怪訝そうにするでもなく。

私をまっすぐにとらえる眼鏡の奥のその瞳は、やっぱり静かで穏やかだった。

「今夜は僕とふたりきりでいいということ?」

「そういう、ことです」

(私、今ちょっと意地になってるかも)

ここで怯んではいけない、みたいな。そういうおかしな気持ちが働いていた。

逃げちゃダメだとか、本懐を遂げるのだとか、なんだかよくわからないおかしな感じ。

「それじゃあ、今夜はふたりで寝ようか」

「は、はい」

< 70 / 120 >

この作品をシェア

pagetop