白衣とエプロン 恋は診療時間外に
ゆっくりと眼鏡を外す先生と、そろりとベッドに入る私。
(眼鏡なしの先生の顔、まだ慣れないな)
いつか、見慣れる日がくるのかな。それとも、すぐに慣れるのかも???
互いの日常がとけあって、ふたりの日常になっていく。そんな夢にきゅんと胸がときめいた。
「電気、真っ暗じゃなくてもいい?」
「えっ、と……小さい電気だけつけておくってことですよね……???」
「そう。小さい電気」
「大丈夫、ですよ」
まさか明るいまんまということはないと思ったけど、ちょっと不安になって聞いちゃった。
薄明りになった部屋で、私たちは――。
「あの小さい電気の名前って、千佳さんは知ってる?」
「えっ、名前なんてあるんですか!?」
向かい合うかっこうで横になったまま、なぜか電球の話を始めていた……。
「というか、君はずっと“小さい電気”だと思っていたの?」
「はい……」
「常夜灯って呼んだりするらしいよ」
「へぇー、初めて知りました」
正直、ちょっと戸惑っていた。いやその、常夜灯なんて呼び方があったという事実にではなくて。
なんていうか、先生の動き(?)がまるっきり想定外で。
だって、こういうときって、普通は――。
暗黙の了解みたいに、すぐさま“無言の時間”が始まるものなのかなって。
互いの息遣いと、喘ぎという演出だけの、ほとんど会話のない時間が。
でも、先生にはギラついた感じがまったくないし。
(ひょっとして、本当にこのまま寝るつもりとか???)
でも、だったら小さい電気……常夜灯(?)をつけておいたりしないだろうし。
「千佳さん」
「はいっ」
「もう、体は大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫です!」
私は無駄に力いっぱい答えた。すると、先生はなんだか困ったように微笑んだ。
「優しいな、君は」
「え?」
「“俺に溺れろ”」
(保坂、先生……???)
らしくない言葉に思い切り耳を疑った。
「なんて言えたら、格好いいのかもしれないが……」
先生はちょっとだけ情けなさそうに笑うと、いつかのように私を側へ抱き寄せた。
「溺れているのは、僕のほうだから」
その言葉は「溺れろ」と言われるよりずっと、私をどうしようもなく溺れさせた。
「先生」
「なんだろう?」
「私、ずっと溺れっぱなしですよ。だって、先生が溺愛するから。私のこと、猫可愛がりするから」
「それは、我が家の猫なのだから当然とも。大切な愛猫なのだから」
「もう、先生はそういう言い方するから……」
「嫌い?」
その声は余裕たっぷりで、私の髪をゆっくりと撫でるその仕草は、しっとりと甘やかで。
(かなわないな、先生には)
心の中でうっとりと甘いため息をつきながら、私は告白した。
まるで、素直に負けを認めるように。
「好きですよ。大好きです、先生のことが」
本当に、言葉ではもう言い表せないくらいに。
「僕も。君なしでは生きていけないと思うくらい」
そうして、私たちは求めあうように唇を重ねた。言葉を尽くして尽くしつきて何もなくて、そうするしかなかったみたいに、切ないくらい情熱的なキスだった、
(眼鏡なしの先生の顔、まだ慣れないな)
いつか、見慣れる日がくるのかな。それとも、すぐに慣れるのかも???
互いの日常がとけあって、ふたりの日常になっていく。そんな夢にきゅんと胸がときめいた。
「電気、真っ暗じゃなくてもいい?」
「えっ、と……小さい電気だけつけておくってことですよね……???」
「そう。小さい電気」
「大丈夫、ですよ」
まさか明るいまんまということはないと思ったけど、ちょっと不安になって聞いちゃった。
薄明りになった部屋で、私たちは――。
「あの小さい電気の名前って、千佳さんは知ってる?」
「えっ、名前なんてあるんですか!?」
向かい合うかっこうで横になったまま、なぜか電球の話を始めていた……。
「というか、君はずっと“小さい電気”だと思っていたの?」
「はい……」
「常夜灯って呼んだりするらしいよ」
「へぇー、初めて知りました」
正直、ちょっと戸惑っていた。いやその、常夜灯なんて呼び方があったという事実にではなくて。
なんていうか、先生の動き(?)がまるっきり想定外で。
だって、こういうときって、普通は――。
暗黙の了解みたいに、すぐさま“無言の時間”が始まるものなのかなって。
互いの息遣いと、喘ぎという演出だけの、ほとんど会話のない時間が。
でも、先生にはギラついた感じがまったくないし。
(ひょっとして、本当にこのまま寝るつもりとか???)
でも、だったら小さい電気……常夜灯(?)をつけておいたりしないだろうし。
「千佳さん」
「はいっ」
「もう、体は大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫です!」
私は無駄に力いっぱい答えた。すると、先生はなんだか困ったように微笑んだ。
「優しいな、君は」
「え?」
「“俺に溺れろ”」
(保坂、先生……???)
らしくない言葉に思い切り耳を疑った。
「なんて言えたら、格好いいのかもしれないが……」
先生はちょっとだけ情けなさそうに笑うと、いつかのように私を側へ抱き寄せた。
「溺れているのは、僕のほうだから」
その言葉は「溺れろ」と言われるよりずっと、私をどうしようもなく溺れさせた。
「先生」
「なんだろう?」
「私、ずっと溺れっぱなしですよ。だって、先生が溺愛するから。私のこと、猫可愛がりするから」
「それは、我が家の猫なのだから当然とも。大切な愛猫なのだから」
「もう、先生はそういう言い方するから……」
「嫌い?」
その声は余裕たっぷりで、私の髪をゆっくりと撫でるその仕草は、しっとりと甘やかで。
(かなわないな、先生には)
心の中でうっとりと甘いため息をつきながら、私は告白した。
まるで、素直に負けを認めるように。
「好きですよ。大好きです、先生のことが」
本当に、言葉ではもう言い表せないくらいに。
「僕も。君なしでは生きていけないと思うくらい」
そうして、私たちは求めあうように唇を重ねた。言葉を尽くして尽くしつきて何もなくて、そうするしかなかったみたいに、切ないくらい情熱的なキスだった、