白衣とエプロン 恋は診療時間外に
私は決してたくさん“経験”があるわけじゃない。それでもやっぱり、保坂先生は少し変わっているんじゃないかと思う。

「これじゃあまるで、脱がせるためにパジャマを買ってあげたみたいだな」

ちょっぴり決まり悪そうに笑う保坂先生。

(今の先生の笑い方、なんか可愛かったかも)

パジャマのボタンを丁寧に外されながら、私は恥ずかしいというより、ちょっと不思議な気持ちでいた。

「千佳さんて、着やせするタイプ?」

「いや、そんなことはないかと……」

「そう? そうかな???」

(先生、ガンガン話しかけてくるなぁ)

保坂先生が自然体すぎる件……。

照れ隠しで饒舌になっているとか、そういう感じではまったくない。

本当にいつもどーり、ご飯を食べてるときと同じ調子で話しかけてくるんだもん。

だからって、それが嫌ってわけじゃない。ただ、ちょっと戸惑ってしまうというか。

だって、こういうときってあまり話しちゃいけないものだとばかり。

少なくとも、今まではそうだった(私の知る限りでは)。

雰囲気を壊すとか、相手の気が散るとか、たぶんそんな感じの理由で。

ただ黙ってひたすら受け入れることを求められていた気がする。

そして、相手が好もしいと思う反応を見せることも。

けど、保坂先生はやっぱり違うみたい。

(どうしよう、先生が不思議すぎる……)

パジャマを脱がされながら、私は恥じらうことも忘れて、先生の動向(?)を観察した。

「君につかぬことを聞くけれど」

「ど、どうぞ」

「この下着って、わざわざ僕のために?」

瞬間、おかしな文章が頭に浮かんだ。

“これは勝負下着ですか?”

“はいそうです”

教科書通りの英文和訳、みたいな……。

(もう、どうしてこんなときにっ)

しかも、なんて答えたらいいのか困るし。

だって、「はい!」と言えば意気込んで乗り込んできたみたいだし(ま、実際そんなようなものだけど)。

そうかといって、「そんなことないですけど?」と言えばウソつきだし。

それをまた「あ、そう」なんて軽く流されたら、それはそれで悲しいような。

「へん、でしょうか?」

質問に質問で返すなんて卑怯者の常套手段だ。でも、仕方なかったんだもの。

そんな卑怯者の私に先生はやっぱり優しかった。

「へんだなんてそんな。とても可愛いし、嬉しいと思ったから。だからつい聞いてしまった」

先生は照れるでもなく、やっぱりいつもの口調でそう言った。

「せっかくなのに色がよくわからないな。電気をつけても?」

「だ、だめですよ!」

「残念。ま、それはそうか」

あっさり納得してくれたけど、先生って冗談なのか本気なのかわからないから少し困る……。
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