白衣とエプロン 恋は診療時間外に
営業スマイルを振りまくわけでもないけど、勘違いな権威を振りかざすでもない。

私は保坂先生の患者さんに対する接し方が好きだ。

特に子どもの患者さんに対応するときの先生がいい。

そして――今日もまた、保坂先生は相変わらず保坂先生だった。

「初めまして。保坂秋彦(ほさかあきひこ)と言います。よろしくお願いします」

私はパーテーションで仕切られたバックヤードでカルテの整理をしながら、診察室から聞こえる先生の声にくすりと笑った。

初診の患者さんがくると必ず、先生はああして自己紹介をする。

今来ているのは、子どもの患者さんだ。

特にご高齢の患者さんや子どもの患者さんには、ゆっくりとしっかり目を見て言うみたい。

そういうときの保坂先生の表情は柔らかい。

まあ、決してニコニコと愛想がいいわけではないけれど。

耳鼻科って子どもの患者さんがすごく多い。

泣きじゃくったり暴れてしまうお子さんも少なくはない。

安全に治療を行うために、補助のスタッフがお子さんをホールドする抑え込み要員(?)に駆り出されることもしょちゅうだ。

そして、ドクターはあの手この手で応戦(?)する。

褒めちぎり作戦とか? 

騙くらかし作戦とか?

でも、保坂先生は子どもをおだてもしなければ、ウソをついて騙し討ちをしたりもしない。
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