花の鎖・蝶の棘
「着物だ。前川のかみさんに幾つか貰って来てやった。それに着替えて勝手場の使い方を教えてもらえ。」
「ありがとうございます。助かります。」
何から何まで本当に。
倒れていたところを彼等に拾われたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
「今日の夕餉の当番、確か一君と平助だったよね?平助は今見廻り行ってるから……」
総司がそう言うと、土方さんが言った。
「斎藤、花宮に勝手場の場所と使い方教えてやれ。平助が帰り次第夕餉の支度に取りかかれ。」
「……承知。」
あー。これは何ともやり難い相手を付けてくれたものだ。関わりたくないと思ったそばから……
「あはは。一君、大好きなご主人様の命令だよ?頑張ってね。」
「まあ、斎藤にゃ苦手分野だからな。」
それって大丈夫なの?
「えーと、じゃあよろしくお願いします。」
「……こっちだ。来い。」
斎藤一はボソリとそう言うとさっさと部屋から出て行ってしまった。
左之と総司が「頑張れ」と送り出してくれたけど、内心気が重くて仕方ない。
速足で追いかけないとついていけない彼の後ろ姿からは近づくなオーラが溢れ出ているような気がした。