花の鎖・蝶の棘
「あぁ、やっと目が覚めたみてぇだな。」
私が部屋を出た途端、男が立っていた。一瞬、びっくりしすぎて悲鳴をあげそうになったのを我慢して飲み込んだ。
視界に飛び込んで来たのは180はありそうな長身の男。
少し垂れ目気味だけど男らしい色気のある雰囲気で引っつかんで結んだだけの髪型をしていた。
しかも和服。道着みたいな……
えっと、此処は診療所ではないのかしら?
訝しげな顔でその男を見上げると、私の表情から察してくれたのかまた喋り出した。
「そう警戒しなさんな。取って食ったりしねえよ。お前、寺の階段で倒れてたんだよ。偶々通りかかった奴らが此処に運んだだけだ。」
男はからからと笑いながらそう言った。
やっぱり、私倒れてたのね。
…………ん?寺?の、階段?
「ま、マンションの階段で倒れてたんじゃ?」
「まんしょん?何だそのまんしょんっつーのは。」
「え?」
「その格好もそうだが、やっぱり可笑しな奴だなお前。女に尋問するのは性分じゃないが、仕方ねえ。来い。」
男が急に眉をひそめ、声音を変えた。それと同時に腕を掴まれ、私は私の意思とは関係なく引き摺られるようにして何処かへ連れて行かれた。
自分の置かれている状況もわからないまま。