花の鎖・蝶の棘
私の質問に、男達は顔を見合わせた。
そのうちの一人が睨みを効かせながら言った。
色白で美丈夫。歌舞伎俳優のように涼しげな目元をした髪の長い男だ。
「此処は壬生の前川邸、会津藩御預“新撰組”の屯所だ。」
「しんせん……組?」
またマニアックなネーミングの施設ね。
確かに、この部屋に連れてこられるまでに目にした建物内はそれっぽい雰囲気を醸し出していた気がする。
板張りの軋む廊下に広々とした中庭。戸板に襖、障子戸。
歴史建造物のような佇まいだった。
「夷狄の者なら知らなくても仕方ねーな。俺たちは京の都を護る為に幕府に仕える武士だ。」
「京の……武士?」
ん?
「此処、東京でしょ?」
「とーきょー?京だが。おめぇはとーきょーとか言う異国から来たのか?言葉は通じるみてーだが。メリケンとは違うのか?」
京って、京都!? メリケンって何!?
アメリカ?え?
ちょっと待って……
私、階段から落ちておかしくなったのかしら?
全く理解出来ない状況に俯き黙るしかなかった。それは頭の中を整理する為に私には必要な事だったのだけど、現実は、いや、彼等は待ってはくれないみたいだ。
キンッ……と嫌な音が聞こえた。
私の目の前にギラリと光る二つの刃が飛び込む。
恐る恐る見上げると、氷の様に冷たい目をした男と、色黒の優男が先程とは全く別の顔をして私を見下ろしていた。