花の鎖・蝶の棘
全身から血の気が引いて行くのが分かる。これは本物だと、この異様な雰囲気が物語っていた。
「おいおい、総司も斎藤も刀を下ろしてやれ。女に簡単に物騒なもん向けんじゃねえよ。」
私をこの部屋に連れて来た長身の男が呆れたように二人の男を諌めている。
私は固まったまま微動だにできなかった。
「流石原田さん。敵にも優しいね。それとも女子だからかな?」
「茶化してんじゃねえよ、総司。それにまだ敵って決まったわけじゃねえだろ。」
色黒の総司と呼ばれた男は、すぐに優男の顔に戻ると言われた通りに刀を仕舞ってくれた。
でも、私の右頬の前にはもう一本刃が待ち構えている。原田と呼ばれた男はため息をついて刀を構える男を制した。
「斎藤、いーから下ろせって。お前のその目、洒落になってねえから。土方さんも何とか言ってくれよ。この忠犬扱えるの土方さんだけだろ?」
助けを求めるかのように原田という男が土方と呼び視線を移した先に、先程の美丈夫がいた。
「ははっ、よく仕込んであんだろ?斎藤、一先ず仕舞っておけ。其処で見張ってるだけでいい。」
「承知……」
土方と言う男の一声ですぐに刀は鞘に収められた。
私もやっと息を吸えたような気がする。
知らず知らず、冷や汗が頬に流れた。それだけこの部屋の空気は凍てついたものだった。