長い春にさよならを
 美晴はベッドから下りてクローゼットを開け、長方形の箱を持ってベッドに戻った。

(ねえ、新しい財布がほしいって言ってたよね? 好きなブランドのだし、喜んでくれるかな?)

 美晴は貴幸の枕元に静かにプレゼントを置いた。

 ベッドにそっと膝を載せたとき、スプリングが弾んで貴幸がなにかつぶやくような声を漏らし、ゆっくりと目を開けた。

「美晴」

 ぼんやりと瞬きを繰り返した彼は、美晴が正座して泣いているのを見て、ガバッとベッドに起き上がった。

「どうした? 何かあったのか?」
「あったよ」

 美晴は左手を彼の方に差し出し、指輪を見せた。

「気に入らなかった……?」

 貴幸に訊かれて、美晴は首を振る。

「すごく……嬉しくて……涙が止まらないの」

 貴幸が安堵の息を吐き、美晴の両手を握った。

「絶対に受け取ってほしかったんだ。だから、断られないよう寝ている間にはめた」
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