青に溺れる
病気が発覚してからしばらくした頃だった。
俺は透子の病室にお見舞いに来ていた。

『拓海くん、毎日お見舞いに来てくれてありがとうね』

透子はそういって笑う。
抗がん剤治療も始まり副作用で苦しいはずなのに、誰かが居るときはいつも笑っていた。

『当たり前だよ』

俺は答える。

『せっかく誕生日プレゼントに拓海くんがエプロンをくれたのに、1度も着れなかったな』

病気が発覚した少し前、透子は18歳の誕生日をむかえていた。
俺は誕生日プレゼントに青色のエプロンをプレゼントした。

俺の中の透子のイメージは、昔から青色だった。
透子が産まれたとき、俺は透明な海の青と同じで美しく純粋だと思った。

そう母親に告げると、その子の名前を『透子』にしようと言った。
ピッタリな名前だと思ったのを覚えている。

『あのエプロンを着て、拓海くんに料理を作りたかったな』

窓の外を眺めながら、透子は笑っているのにどこか寂しそうな顔をした。
中学生のときは包丁さえ上手く扱えずにいた透子は、今は料理が趣味になるほど上手くなった。

もう透子の料理は食べられなくなるのか。
俺は透子が初めて料理を作ったときのことを思い出す。

オムレツに野菜スープ、それとサラダ。

オムレツは形がいびつで少しこげていたし、野菜スープは野菜を大きく切りすぎていて味も薄かった。

でも透子が俺のために作ったってだけで、嬉しくて"美味しい"と言ったことは嘘ではなく本心だった。

透子の苦しんでいる姿はもう見たくない。
苦しんでいる姿ではなく、料理を作って笑っている姿が見たい。

『透子』

俺はこのとき決心した。
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