青に溺れる
『どうしたの?』

透子は俺のほうを向く。

『好きだ』

とうとう言った。
ずっと胸に秘めていた想いだった。

『私も拓海くんのこと好きよ』

そう言って透子は笑う。

『透子の思っているような意味じゃない』

透子の笑顔はすうっと消えて真顔になる。

『え?』

意味が理解できていないようだった。
当たり前の反応だ。

『妹としてじゃなくて、一人の女として好きなんだ』

透子はなにも答えなかった。

『気持ち悪いか?実の兄が実の妹に恋愛感情があるだなんて』

透子はなにも答えず下を向いた。

『産まれてから一番近くで透子を見ていた。喧嘩だって沢山した。どんどん大人になっていく透子を見ていて、嬉しくもあり寂しかった』

今まで抱えていた想いが、感情の器から溢れだして止まらなかった。

『俺と透子は結婚できないから、いつか透子が結婚するってなったときは、誰よりも祝福してやろう。そう決めていた。でも俺よりも後に産まれた透子が、俺よりもはやくこの世から居なくなってしまうと分かって、俺はずっと悩んでいた』

俺は緊張で声が震えるのに気づいていたが、そのまま続けた。

『透子、抗がん剤治療やめないか』

俺のただの我が儘だってことはわかっていた。
拒否されたらきちんと諦めるつもりだった。

『家に戻ってさ、最期を迎えるその日まで1日1日を好きなように生きて過ごそう。俺がきちんと、最期まで見届けるから』

我ながら馬鹿なことを言っているなと思った。
そんなことを言って、透子が頷くはずがない。

"抗がん剤治療を止める"ということは、"生きられる時間を短くする"ことと同じだった。
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