青に溺れる
透子はずっと下を向いたままだった。
混乱しているのだろう。
無理もない。

『透子…?』

よく見てみると、下を向く透子の顔から落ちる雫を目にした。

『泣いてるのか?』

俺が馬鹿なことを言うから泣かせてしまったんだ。
そう思った。

『ごめん、変なこと言って。全部忘れてくれていいから、泣かないでくれ』

俺は泣いている透子の肩をさすった。

『うれしい……』

『……え?』

震える声で、確かに透子はそう言った。
俺は最初、幻聴だと思った。

『拓海くんが、私と同じ気持ちだったんだって知れて嬉しい……』

俺は夢でも見ているのかと思った。
でも頬をつねると、痛みが現実だと教えてくれた。

『同じ気持ちって…透子も俺のことを?』

『うん』

透子は照れながら笑った。
まさかそんな答えが返ってくるなんて、思ってもみなかった。

『私も、拓海くんが好きよ』

透子のその言葉だけで、もう何も要らないと思った。

俺は透子をぎゅっと抱き締めた。
華奢な身体は、少し力を入れて抱き締めると壊れてしまいそうなほどだ。

『私、抗がん剤治療やめるよ。最期のときまで1秒でも長く、拓海くんのそばにいたいから』

透子のためならすべてを捨てられる。
本気でそう思った。
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