青に溺れる
私たちがこの海に囲まれた街に来たのは、たった1週間前。

アパートの2階。
1DK。
そこが私たちの家だ。

狭いし、決して綺麗とは言えない。
隣の部屋の物音が気になることもしばしばだ。

私は朝の7時になると、朝食準備にとりかかる。

お茶碗一杯の白米に、鮭の塩焼き、ワカメの味噌汁。
拓海くんの好きなゆで卵は半熟に。

朝の9時になると、私はベッドで寝ている拓海くんを起こしにいく。

「拓海くん、朝だよ」

「うー…ん……」

私が拓海くんの身体をゆさゆさと揺らすと、起きるのを拒むように私と反対側を向く。

「ご飯冷めちゃうよ」

寝起きの悪い拓海くんは、しばらく起こし続けないとなかなか起きない。
朝は昔から苦手みたいだ。

「……透子がキスしてくれないと起きれない」

寝起きの声で拓海くんはそんなことを言う。
昨日も同じ事を言って、キスをするまで起きなかったっけ。

「しょうがないなー」

私は拓海くんの唇にそっとキスをする。
しょうがないと言いながらも、求められるのはとても嬉しい。

前まではこんなふうに朝ご飯を作って、拓海くんを起こして、おはようのキスをする。
そんな静かで幸せな朝は迎えられたことがなかった。

誰にも邪魔されない。
この幸せがずっと続けばいい。

この場所で、私たちは二人で生きていく。
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