青に溺れる
「拓海くんは、後悔していないの?」

ずっと聞いてみたかった。

友達、両親、仕事……。
私たちはすべてを捨てて、住み慣れた街を出た。

社会人2年目の拓海くんには、重い選択だっただろうと今更ながら思っていた。

「愛する透子と二人で生きていけるなんて、これ以上ない幸せだよ」

拓海くんはそう言って笑う。
なんでそんな迷いのない、真っ直ぐな目で言えるのだろう。

「でも、でも私は……っ!」

私はもうすぐ……

「透子」

そう言いかけて、拓海くんの声に遮られる。

「俺は後悔なんてしていない。透子に好きだと言ったことも、住み慣れた街を出たことも、すべてを捨てたことも。だから透子は、自分が思うように生きたらいい」

拓海くんの声に迷いなんてなかった。
いつもやろうと決めたことは貫く、強い意思のある人だ。
そんな拓海くんを、私は羨ましく思っていた。

"余計なことは何も考えなくていい"

そう言ったって、考えてしまう。

拓海くんの人生を邪魔してはいけない。
私はただのお荷物になるだけ。

ずっと隣にいたい。
そんな願いは叶うはずはないのに、叶うのではないかと少しの期待をしてしまう。

5年10年先には、拓海くんの隣には誰がいるのだろう。
左隣から見る横顔を見られるのはあと何回だろう。

拓海くんの隣にいるのは、私じゃダメだ。

このとき、私は決意したんだ。



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