明日へ馳せる思い出のカケラ
 大学を卒業し、それまで付き合いのあった同輩達とはすっかり疎遠になってしまった。
 就職を機にそれぞれが地元に戻って行ったっていうのが、その大部分の理由なのだろう。ただ俺と同じで東京に住み続けている奴らも少なからずいるはず。

 でもキャプテンだった彼以外の同輩達とは、もうほとんど連絡は取っていない。
 結局のところ、俺とあいつらは夜な夜な遊び呆ける程度の付き合いだったんだ。でも彼とだけはか細いまでも付き合いが続いている。
 いや、むしろ彼とは大学を卒業してからの方が親密になった。そんな気がしてならない。

 どうして彼は俺を見捨てないのだろうか。改めてそう考えずにはいられない。

 だって初めから彼が俺との繋りを保っていなかったとするならば、今更になって孤独に怯む必要も無かったろうからね。
 でももし彼が初めから俺を見放していたとするならば、俺は今頃どうなっていたのだろうか。
 そうも考えずにはいられなかった。ただ結局のところ、俺が下した結論はこれだったんだよね。

「遅かれ早かれ、俺は一人ぼっちになってしまう存在なんだ」

 これこそが覆し様の無い現実。俺はそう諦めてしまったんだよね。
 心がポッキリと折れてしまった。そんな感じだったんだろう。

 だから俺は言うつもりのない気持ちを彼に呟いてしまったんだ。
 自分自身の心底に潜んだみじめで不甲斐ない本心をね。

「昨日の晩なんだけどさ、バイト先に客として【あいつ】が来たんだよ。それも今付き合ってる彼氏を連れてさ。それが単なる偶然だったってのは分かってる。でもさ、俺は今のあいつを見て嫉んじまったんだよ。俺がこれだけ苦しんでいるっていうのに、あいつは今を幸せに生きている。それが許せなかったんだ。俺があいつに何をしたか。そんな事は棚に上げてしまってね。
 それなのにあいつは昨日、昔と変わらない笑顔を俺に向けてくれた。温かく微笑んでくれたんだよ。でも俺はただ戸惑うだけで、それを逆恨みしてしまった。情けないよ。自分の馬鹿さ加減に泣けてくるほどだよ。悔しくて仕方がないよ……」

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