明日へ馳せる思い出のカケラ
 ただ俺にはそんな彼の気概を受け止める余裕を持ち合わせてはいなかった。
 だってあの時、君がそんな想いを抱いて大学に来ていたなんて、想像すらしていなかったから。

 彼は頭を下げながら言った。彼女の偏屈した性格を知っていたにもかかわらず、その配慮に欠けた依頼を俺に告げてしまって申し訳なかったと。
 それさえなければ俺と君の関係は壊れなかったはずなんだと、悔しさを噛みしめつつ深く頭を下げ続けたんだ。
 そして彼は正直に白状し始める。ううん、彼は俺の知らなかった君の真実を話し始めたんだ。

 彼は病室で俺と彼女の間に起きた過ちを知っていた。それについて俺が驚いたのは言うまでもない。
 でも俺が驚きを見せたのは、単に彼がそれを知っていたって事じゃなかったんだ。そう、彼はあの過ちの事を大学に居る頃には、もうすでに知っていたんだよ。それもまだ俺と君が別れを迎える前にね。

 どうやって彼はそれを知り得たのか。気にはなるけど、でも今更俺はそれを詮索するつもりはない。
 休学からの復活で学年が変わってしまったけど、彼と彼女は同じ学部だったからね。頻繁とは言わないまでも、それなりに顔を会わせる機会には恵まれていたんだろう。

 むしろ俺の方がバツが悪くなってしまった。
 そんな事実を聞いてしまったならば、きっと彼は俺の事を軽蔑したんだろうって思えてしまったからね。
 けど実際にはそんな事はなかった。いや、俺の考えとは真逆の対応を彼はしてくれていたんだよ。

 彼は本心から俺と君との仲を快く応援してくれていたんだね。だから俺が彼女との間違いに苦悩するって察してくれていたんだ。
 そしてその苦悶が原因として、俺と君の関係が悪化する事を危惧してくれていたんだよ。

 だけど上手く進まない就職活動に心折れた俺は、そんな自分自身の不甲斐ない心情を隠したいが為だけに、暴言を吐き捨てて君を絶望の淵に突き落としてしまった。
 生涯を共に過ごしたいと心から願った君との関係を、自分から投げ捨ててしまったんだ。

 彼は言う。それでも君が懸命に俺を想い続けていてくれたんだと。俺からの『ごめん』ていう一言と、もう一度やり直そうっていう誠意ある言葉を待ち続けていてくれたんだと。

 あれ程の苦痛を虐げられ、君の方こそつらく苦心する日々を送っていたんだろうに。
 でも君は大学に顔を出し続けていた。その胸の中に何を思い描いていたんだろうか。
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