明日へ馳せる思い出のカケラ
 君の気持ちが知りたくてたまらない。そして彼が俺に教えてくれたのは、まさにその胸の内についてだったんだ。

 君は偶然でもいいから俺と会いたい。どんな形でもいいから俺ともう一度向き合い、ちゃんと話がしたい。君はそう思ってくれていたんだ。

 言葉では表せないほどの寂しさや怖さ、そして虚しさを抱き、それに押し潰されそうになっていただろうに。だけど君は俺を想う気持ちだけにすがり、それだけを支えにして大学に来ていた。
 一途に俺を想い続けることで、鈍る足を必死に前へと踏み出していたんだ。

 そうやって君は無理に気持ちを奮い立たせて、その壊れそうになる心の傷を継ぎはぎだらけに埋め合わせていったんだろう。でも君がそこまで懸命に俺を想い、頑張れた根源って何だったのだろうか。
 それは彼の口から聞くまでもない。だって俺はそれを良く理解していたんだから。そうなんだ。君が心から俺を【必要】としてくれているんだって、初めから知っていたはずなんだ。君がどれほど俺の事を愛してくれていたのか、それを十分感じ取っていたはずなんだ。

 申し訳ないって言葉なんかじゃ全然足りないよね。
 それに悔やまれるのは、俺はその時の君の姿を一度も見ていないって事なんだ。

 君がどれだけ思い詰めていたのか、俺にはそれが分からない。だから余計に苦しくなってしまうんだよ。君の不憫な姿を想像してしまうからね。

 そしてそんな俺の想像が、さほど間違ってはいないんだって痛感してしまう。
 だって彼は君の当時の姿を良くしっていたのだから。彼は懸命にもがく君の姿に胸を締め付けられた。見ていられないほどに居た堪れない君の姿に、彼は見て見ぬ振りなんて出来なかったんだ。だから彼は就職祝賀会っていう理由をこじ付けて、俺と君の仲を修復させようと試みたんだよ。

 それ程にまで気配りの出来る彼の事だ。祝賀会の開催を呼び掛ける際、彼女に対しても忠告してくれていたんだろうね。
 俺と君は幸せになるべきなんだと。だからこれ以上俺や君に干渉するなって言ってくれていたんだ。

 俺はバカだ。君や彼、そして彼女さえもが俺を気遣ってくれていたっていうのに、でも俺はその事に何一つ気付く事が出来なかった。いや、それどころか当時の俺は同輩達と夜な夜な遊び呆け、君の想いから逃げていたんだよ。不甲斐ない自分が恥ずかしいばかりにね。

 そのクセして一言謝りさえすれば、簡単に君との関係も復元出来るってタカを括っていた。まったくもって救われないのは、俺のバカげた心の脆弱さだけだったんだよ。

 俺は後悔っていう自責に苛まれるのみだった。もう死んだ方がマシだ。そう思ってしまうくらいにね。
 もし誰かに殴られでもしたならば、僅かながらも心の痛みを誤魔化すことが出来るのだろうか。それが本当であるならば、俺は甘んじてその苦痛に身を投じよう。
 そう本気で思うほどに、俺は自分の脆弱さに嫌気がさしてしまったんだ。
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