明日へ馳せる思い出のカケラ
 もう俺の心は限界だった。この先どうやって生きて行けばいいか考えられなかったんだ。
 そしてそんな歪みきった俺の胸の内は、さらにねじ曲がった方向へと感情の矛先を向けていく。

 この世界に存在する全てが冷酷に俺を処遇するというならば、いっその事、こんな世界無くなってしまえばいい。何もかもが消滅してしまえばいい。
 俺にはそう恨む事しか出来なくなっていたんだ。

 先程頭に落ちた雨粒が額に流れてくる。
 俺はそんな濡れた額を摩りながら、何気なく夜空に視線を向けた。
 俺をさげすむ世界の夜空がどんな表情をのぞかせているのか。それを確かめたかったから。

 雲の切れ間から月の光らしきものが見える。だがそれだけだ。
 淀みきった雲の広がる空は黒く、僅かばかりに光る月の輝きを瞬く間に飲み込んでいく。

 まるで希望を吸い込む様な、絶望だけが広がる空。
 俺にはそうとしか見えなかった。俺はそこに苛立った失望感しか抱けなかったんだ。
 そして時折降り注ぐ真冬の冷たい雨粒が、俺の心を深く凍らせていく。

 今日はクリスマス。もしこれが雪だったならば、少しはロマンチックな気持ちにでもなれたのだろうか。もう少しだけ心が荒むのを防げたのだろうか。

 いや、例えそうだったとしても、今の俺にはまったく必要のない気持ちだね。
 だってそんな些細な安らぎなんて、俺の心を禍々しく塗り潰す怨念じみた感覚の前では、何の意味も成さないのだから。

 俺を蝕む心の闇は深まるばかりだ。
 そして俺はただ呆然と夜空を見上げ、そこに意識を奪われていた。――とその時、

「ドンッ!」

 俺の肩に何かがぶつかった。
 歩道の真ん中に突っ立っていたからだろう。通りすがりの誰かが俺に接触したんだ。

 でも俺はそれに構わず空を見上げていた。なんだかもう、面倒だったんだよね。人と関わる事がさ。

 ただどこまでも俺は運命に呪われているんだろう。
 俺に接触したのはいかにもヤンチャそうな若い青年であり、その青年を含んだ3人組が因縁を吹っかけて来たんだ。

「よう、あんちゃん。空なんか見てて楽しいんか? でもさ、こっちは肩が外れたみたいに痛いんだよ。だからさ、何か言う事あるんじゃね~の?」

 もうどうでも良かった。それまで堪えていたものが、一気に音を立てて崩れ去るのが分かったから。

 もう我慢なんて出来ない。俺は感情に身を任せるがまま、青年達に向かってこう吐き捨てたんだ。

「冗談は顔だけにしとけよ。カスどもが――」
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