明日へ馳せる思い出のカケラ
最終話 明日へ馳せる思い出のカケラ
大きく息を吸い込んだ俺は、再び彼の口から息を吹き込む。そしてありったけの体力を絞り出し、心臓マッサージをし続けたんだ。
すると彼の表情に少しだけ変化が現れる。青冷めていた彼の表情が、次第に明るみを帯びて来たんだ。
やはり倒れた直後だけに、蘇生までの時間が短いんだろう。
「もう少しだ。諦めてたまるか!」
俺は全身全霊を掛けて彼の胸を押す。
今を頑張らずにいつ頑張るんだ。
そう自分を叱咤しながら。
そしてもう一つ、俺を人命救助に駆り立てる心境が、俺自身に訴えかけていたんだ。
彼の命を助ける為に、俺は今まで生きて来たんじゃないのかって。
君の幸せであるはずの彼っていう存在を救う事こそが、俺が生きて来た使命なんじゃないのかってね。
3度目の心臓マッサージが終った。
俺の息は肩を上下させなければ成り立たないほどに乱れている。
それでも止まっている時間は無い。無理やり大きく息を吸い込んだ俺は、その息苦しさに顔をしかめるも、構うことなく彼の口に息を吹き込んだ。――と、その時だ。
「ゴボッ、ゴホゴホッ」
突然彼がむせ返えった。
ただ激しく咳き込む彼の姿は、とても痛ましいものに見えて仕方ない。それでも俺は彼の命が取り留められたのだと確信する。
くしくもそれは、彼女が息を吹き返したのと同じ、4セット目の人口呼吸の時だった。
俺は君に彼を膝枕するよう指示する。
君はそれに従って、優しく彼を介抱した。
すると凄んでいた彼の呼吸が、みるみると沈静化していくのが分かった。
もう大丈夫のはずだ。
落ち着きを見せた彼の姿を目にし、俺は安心したんだろう。ふと全身の力が抜け、その場に尻餅を着いてしまった。
でもその時、俺は本心からの言葉を君に向けて発したんだ。自然に生まれた満面の笑みを浮かべてね。
「良かった。本当に良かった。もう大丈夫だよ」
気の利いた言葉なんかじゃない。でも君は大粒の涙を流しながらその言葉に頷いてくれた。何度も何度も頷いていてくれたんだ。
うまく言葉が出せないくらいに泣きじゃくりながら。
でもそんな君の顔も、気が付けば嬉しさ溢れる笑顔でいっぱいになっていたんだ。
それも今までに俺が見た中で、一番に思えるくらいの素敵な笑顔でね。
「頑張ったな、お兄ちゃん」
「凄いぞ、よくやった!」
握手と喝采が湧き上がる。
すっかりその存在を忘れていた俺は、そんなボランティアスタッフ達から掛けられる数々の労いの言葉に、驚きを露わにするしかなかった。
いや、無我夢中で救助活動をしていたから、投げ掛けられる周りからの言葉の意味を理解出来なかったんだ。
でもそれはほんの少しの時間だった。
俺はすぐに自分に向けられている言葉の意味を把握したんだよ。それもこれは夢なんかじゃなくて、偽りの無い現実なんだって事も合わせてね。
俺は今、この場に詰めかけている全てのボランティアスタッフ達から、絶え間ない称賛を贈られている。
気持ちが良い。とは決して言えない。いやむしろ気恥ずかしいくらいさ。
それでもやり遂げた達成感で心が満たされていく清々しい気持ちには逆らえない。
俺は君に照れ笑いを差し向けながら、胸の中で何とも言えない嬉しさを噛みしめた。
すると彼の表情に少しだけ変化が現れる。青冷めていた彼の表情が、次第に明るみを帯びて来たんだ。
やはり倒れた直後だけに、蘇生までの時間が短いんだろう。
「もう少しだ。諦めてたまるか!」
俺は全身全霊を掛けて彼の胸を押す。
今を頑張らずにいつ頑張るんだ。
そう自分を叱咤しながら。
そしてもう一つ、俺を人命救助に駆り立てる心境が、俺自身に訴えかけていたんだ。
彼の命を助ける為に、俺は今まで生きて来たんじゃないのかって。
君の幸せであるはずの彼っていう存在を救う事こそが、俺が生きて来た使命なんじゃないのかってね。
3度目の心臓マッサージが終った。
俺の息は肩を上下させなければ成り立たないほどに乱れている。
それでも止まっている時間は無い。無理やり大きく息を吸い込んだ俺は、その息苦しさに顔をしかめるも、構うことなく彼の口に息を吹き込んだ。――と、その時だ。
「ゴボッ、ゴホゴホッ」
突然彼がむせ返えった。
ただ激しく咳き込む彼の姿は、とても痛ましいものに見えて仕方ない。それでも俺は彼の命が取り留められたのだと確信する。
くしくもそれは、彼女が息を吹き返したのと同じ、4セット目の人口呼吸の時だった。
俺は君に彼を膝枕するよう指示する。
君はそれに従って、優しく彼を介抱した。
すると凄んでいた彼の呼吸が、みるみると沈静化していくのが分かった。
もう大丈夫のはずだ。
落ち着きを見せた彼の姿を目にし、俺は安心したんだろう。ふと全身の力が抜け、その場に尻餅を着いてしまった。
でもその時、俺は本心からの言葉を君に向けて発したんだ。自然に生まれた満面の笑みを浮かべてね。
「良かった。本当に良かった。もう大丈夫だよ」
気の利いた言葉なんかじゃない。でも君は大粒の涙を流しながらその言葉に頷いてくれた。何度も何度も頷いていてくれたんだ。
うまく言葉が出せないくらいに泣きじゃくりながら。
でもそんな君の顔も、気が付けば嬉しさ溢れる笑顔でいっぱいになっていたんだ。
それも今までに俺が見た中で、一番に思えるくらいの素敵な笑顔でね。
「頑張ったな、お兄ちゃん」
「凄いぞ、よくやった!」
握手と喝采が湧き上がる。
すっかりその存在を忘れていた俺は、そんなボランティアスタッフ達から掛けられる数々の労いの言葉に、驚きを露わにするしかなかった。
いや、無我夢中で救助活動をしていたから、投げ掛けられる周りからの言葉の意味を理解出来なかったんだ。
でもそれはほんの少しの時間だった。
俺はすぐに自分に向けられている言葉の意味を把握したんだよ。それもこれは夢なんかじゃなくて、偽りの無い現実なんだって事も合わせてね。
俺は今、この場に詰めかけている全てのボランティアスタッフ達から、絶え間ない称賛を贈られている。
気持ちが良い。とは決して言えない。いやむしろ気恥ずかしいくらいさ。
それでもやり遂げた達成感で心が満たされていく清々しい気持ちには逆らえない。
俺は君に照れ笑いを差し向けながら、胸の中で何とも言えない嬉しさを噛みしめた。