明日へ馳せる思い出のカケラ
その言葉に俺は心の底から怒りで震えたんだ。だってキャプテンの彼だって、この大会に向けて相当な努力を積み重ねて来たはずなんだからね。
それなのに意味の分からないアクシデントでその努力は水の泡になってしまった。でも彼はこんな時ですら、チームメイトを気遣って励ましてくれているんだ。自分の痛みやつらさをじっと我慢してね。
立ち上がった俺は猛烈な勢いでトラックを走り始めた。自分の中で培ったはずの走るペースなんか、完全に度返しするスピードでね。
もう頭ン中は憤りを通り越し、怒気で真っ黒に塗りつぶされている。バカな審判員達への怒号が俺の全身に響き渡っていたんだ。
負傷者の度合いを調べてから再度レースを仕切り直す。それのどこに問題があるって言うんだ。計画通りに大会を進行する事が、そんなにも優先しなければならない責務なのか。
いや、間違ってる。これは絶対に間違っているぞ!
でも案の定、怒りに身を撒かせて走り、ペースを乱しきってしまった俺の体力は早々に悲鳴を上げた。
強風が向かい来るバックストレートを走り終えた俺の肺は、はち切れんばかりに唸りを上げていたんだ。
けど簡単に立ち止まるなんて出来るはずがない。だって俺は忸怩たるも負傷で棄権せざるを得なかった、キャプテンの彼の分まで走らなければいけないんだから。
ちょうどトラックを一周しスタート地点に戻って来た俺は、ハンマー投げの選手に抱えられながら医務室へと向かうキャプテンの後ろ姿を見てしまった。
つらそうに足首を抑えているその状態からして、捻挫でもしてしまったんだろう。
でも審判員が冷静な対応に留意し、再スタートの執行を取り計らってくれたならば、彼は走れたかも知れないんだ。
彼はチームのエースとしてこの大会に臨み、みんなの期待を一身に背負ってレースに挑んだはず。その意気込みは並々ならぬものがあったはずだ。
それなのに、彼のレースは数歩にも満たずに終わりを告げてしまった。
俺はそれを思うと悔しくて仕方なかった。
俺の息苦しさなんて、彼の無念さに比べればクソ程にも価値なんてない。そう思えて仕方なかったんだ。
彼がこの日の為に血のにじむ練習を積んできたのは他ならぬ事実のはず。
いや、彼だけじゃない。このレースに参加した誰しもが例外なく、筆舌に尽くしがたい努力を重ねてきたはずなんだ。
それなのに低能でグズな審判のせいで、その努力がまったくの無駄になってしまった。
「ぶっ倒れるまで走り続けてやるさ!」
退場した選手全員の口惜しい気持ちを背負ったかの様に、俺は意固地になって怒りのままに走り続けた。彼らの無念を渾身の力で激しくレースに叩きつけたい。そんな気分だったんだよ、本当にね。
でも1万メートル走という競技は、そんな俺の沸騰した怒りを簡単に冷ましてしまうものだったんだ。
俺は完全に忘れていたんだよ。この種目が陸上きってのハイレベルで過酷な競技なんだという事をね――。
それなのに意味の分からないアクシデントでその努力は水の泡になってしまった。でも彼はこんな時ですら、チームメイトを気遣って励ましてくれているんだ。自分の痛みやつらさをじっと我慢してね。
立ち上がった俺は猛烈な勢いでトラックを走り始めた。自分の中で培ったはずの走るペースなんか、完全に度返しするスピードでね。
もう頭ン中は憤りを通り越し、怒気で真っ黒に塗りつぶされている。バカな審判員達への怒号が俺の全身に響き渡っていたんだ。
負傷者の度合いを調べてから再度レースを仕切り直す。それのどこに問題があるって言うんだ。計画通りに大会を進行する事が、そんなにも優先しなければならない責務なのか。
いや、間違ってる。これは絶対に間違っているぞ!
でも案の定、怒りに身を撒かせて走り、ペースを乱しきってしまった俺の体力は早々に悲鳴を上げた。
強風が向かい来るバックストレートを走り終えた俺の肺は、はち切れんばかりに唸りを上げていたんだ。
けど簡単に立ち止まるなんて出来るはずがない。だって俺は忸怩たるも負傷で棄権せざるを得なかった、キャプテンの彼の分まで走らなければいけないんだから。
ちょうどトラックを一周しスタート地点に戻って来た俺は、ハンマー投げの選手に抱えられながら医務室へと向かうキャプテンの後ろ姿を見てしまった。
つらそうに足首を抑えているその状態からして、捻挫でもしてしまったんだろう。
でも審判員が冷静な対応に留意し、再スタートの執行を取り計らってくれたならば、彼は走れたかも知れないんだ。
彼はチームのエースとしてこの大会に臨み、みんなの期待を一身に背負ってレースに挑んだはず。その意気込みは並々ならぬものがあったはずだ。
それなのに、彼のレースは数歩にも満たずに終わりを告げてしまった。
俺はそれを思うと悔しくて仕方なかった。
俺の息苦しさなんて、彼の無念さに比べればクソ程にも価値なんてない。そう思えて仕方なかったんだ。
彼がこの日の為に血のにじむ練習を積んできたのは他ならぬ事実のはず。
いや、彼だけじゃない。このレースに参加した誰しもが例外なく、筆舌に尽くしがたい努力を重ねてきたはずなんだ。
それなのに低能でグズな審判のせいで、その努力がまったくの無駄になってしまった。
「ぶっ倒れるまで走り続けてやるさ!」
退場した選手全員の口惜しい気持ちを背負ったかの様に、俺は意固地になって怒りのままに走り続けた。彼らの無念を渾身の力で激しくレースに叩きつけたい。そんな気分だったんだよ、本当にね。
でも1万メートル走という競技は、そんな俺の沸騰した怒りを簡単に冷ましてしまうものだったんだ。
俺は完全に忘れていたんだよ。この種目が陸上きってのハイレベルで過酷な競技なんだという事をね――。