明日へ馳せる思い出のカケラ
きつい体に鞭を打って走る。そして俺は先頭集団に肉薄するほどの勢いで距離を詰めた。ただ転倒した選手達もこれで諦めたわけじゃない。大半の選手は直ぐに立ち上がって走り出したんだ。
でも残念な事に、その中には足を引きずっている者が複数見受けられる。留学生の彼などは、動けずに座り込んだままだ。
やっぱり昨日の1500メートル走の影響が残っていたんだろう。それでも彼は高い集中力で挑み続けていた。けど最後に発生したフェンス倒壊のよるアクシデントで、その集中力が途切れてしまったんだ。
そうなってしまったら最後、さすがの彼でも踏ん張りが利かずに崩れ落ちるしかなかったんだろう。そんな痛まし彼らを気の毒に思いながらも、俺はその横を通り過ぎて上位を追った。
もうこうなったら行くしかない。この位置からじゃ表彰台は無理だけど、でも入賞くらいは行けそうなんだ。そして俺にはまだ頑張れる力が残っている。きっと暑い夏に積み上げてきた練習の成果が、俺を強く叩き上げてくれたんだろう。
ラスト1周を告げる鐘が審判員によって鳴らされる。思えばあの審判員に向けた怒りでこのレースは幕を開けた。
けど今となってはそんな事はどうでもいい。俺の頭の中は一人でも多くの背中に追いつき、それを追い越したい気持ちでいっぱいなんだ。
だが最後の向かい風であるバックストレートに差し掛かった俺は、その尋常でない風の強さに気持ちが萎えそうになってしまった。
あまりにも強すぎる突風に、俺のか細い情熱の炎は掻き消される一歩手前だったんだ。そしてそれを思うのと同時に、俺は背後に迫る何者かの気配を感じた。
「クソっ。抜かすどころか抜かれるのかよ。ここまで頑張れたっていうのに、神様ってのは意地が悪いんだな……」
絶望に近い感覚だったんだろう。最後の最後で努力が報われない。そんな失望感が俺の背中を音も無く突き抜けていく。
でも背後から俺を抜き去ってゆくその姿は、まったく想像の範疇を超えた存在だったんだ。
驚いたというよりは、あせったと言うべきなんだろう。
だって俺を抜き去った存在は、スタート直後に集団の前を横切った、あの【白い猫】だったんだからね。そしてその猫は、まるで付いて来いとばかりに俺を先導していくんだ。
まったく状況が理解出来ないまま、でも俺はその猫に引っ張られる形で足を前に向けた。
するとどうした事か、走るスピードがみるみると加速していく。決してそんな事は無いはずだけど、前を行く猫が強風から俺を守ってくれている。不思議にも俺はそう感じたんだ。
そのままバックストレートを駆け終えた時、俺は二人の選手を追い抜いていた。
残すはもう、追い風のメインストレートしかない。そしてその先にあるのはゴールだけなんだ。
足が折れたって構わない。肺が破裂しても本望だ。だけどあのゴールまでは何が何でも辿り着いてみせる。このまま全力を出し尽くした姿勢で。
でも残念な事に、その中には足を引きずっている者が複数見受けられる。留学生の彼などは、動けずに座り込んだままだ。
やっぱり昨日の1500メートル走の影響が残っていたんだろう。それでも彼は高い集中力で挑み続けていた。けど最後に発生したフェンス倒壊のよるアクシデントで、その集中力が途切れてしまったんだ。
そうなってしまったら最後、さすがの彼でも踏ん張りが利かずに崩れ落ちるしかなかったんだろう。そんな痛まし彼らを気の毒に思いながらも、俺はその横を通り過ぎて上位を追った。
もうこうなったら行くしかない。この位置からじゃ表彰台は無理だけど、でも入賞くらいは行けそうなんだ。そして俺にはまだ頑張れる力が残っている。きっと暑い夏に積み上げてきた練習の成果が、俺を強く叩き上げてくれたんだろう。
ラスト1周を告げる鐘が審判員によって鳴らされる。思えばあの審判員に向けた怒りでこのレースは幕を開けた。
けど今となってはそんな事はどうでもいい。俺の頭の中は一人でも多くの背中に追いつき、それを追い越したい気持ちでいっぱいなんだ。
だが最後の向かい風であるバックストレートに差し掛かった俺は、その尋常でない風の強さに気持ちが萎えそうになってしまった。
あまりにも強すぎる突風に、俺のか細い情熱の炎は掻き消される一歩手前だったんだ。そしてそれを思うのと同時に、俺は背後に迫る何者かの気配を感じた。
「クソっ。抜かすどころか抜かれるのかよ。ここまで頑張れたっていうのに、神様ってのは意地が悪いんだな……」
絶望に近い感覚だったんだろう。最後の最後で努力が報われない。そんな失望感が俺の背中を音も無く突き抜けていく。
でも背後から俺を抜き去ってゆくその姿は、まったく想像の範疇を超えた存在だったんだ。
驚いたというよりは、あせったと言うべきなんだろう。
だって俺を抜き去った存在は、スタート直後に集団の前を横切った、あの【白い猫】だったんだからね。そしてその猫は、まるで付いて来いとばかりに俺を先導していくんだ。
まったく状況が理解出来ないまま、でも俺はその猫に引っ張られる形で足を前に向けた。
するとどうした事か、走るスピードがみるみると加速していく。決してそんな事は無いはずだけど、前を行く猫が強風から俺を守ってくれている。不思議にも俺はそう感じたんだ。
そのままバックストレートを駆け終えた時、俺は二人の選手を追い抜いていた。
残すはもう、追い風のメインストレートしかない。そしてその先にあるのはゴールだけなんだ。
足が折れたって構わない。肺が破裂しても本望だ。だけどあのゴールまでは何が何でも辿り着いてみせる。このまま全力を出し尽くした姿勢で。