明日へ馳せる思い出のカケラ
陸上部に所属はしているものの、俺はツルんだ行動が得意でなかった。
別に格好つけているわけじゃない。単に一人で黙々と走るのが好きだったんだ。だから他の部員と接触する機会は著しく乏しかった。
それでも俺は君達の顔は知っていたんだ。いつも二人で幅跳びの練習に励む姿は微笑ましくあり、俺はそんな二人の姿に元気をもらっていたから。
アスリートとしての技量はお世辞にも高いとは言えない。
けれどひた向きな練習姿勢は、他の誰よりも強い意志を感じ取ることが出来る。
俺はそんな君達にどこか惹かれていたんだろう。
学部こそ違えど、君達は俺と同じ学年だった。そのせいなのか、助けを乞う君は俺の名前を知っていた。
いや、逆に同じ陸上部員であるにも関わらず、君達の名前を知らない俺の方がおかしいんだろう。
そんな事を考えた俺は、意識の無い女性の前で不謹慎でありながらも口元を緩めた。
やっぱり俺は他人とは少しズレているのかも知れない。でもそんなバチ当たりな態度が、俺に不思議と冷静さを取り戻させたんだ。
混乱した君の口ぶりは未だに支離滅裂している。それでも俺は意識のない彼女の身に何が起きたのか、漠然とはしつつも把握することが出来た。
どうやら倒れ込んだ彼女の体調は、数日前から悪かったらしい。日ごろから貧血ぎみだったみたいだけど、でも今回はそれとは少し違う様だ。
君は体調の優れない彼女を気遣い、練習することを控えさせていたようだけど、負けん気の強い彼女はそれを拒みトレーニングをし続けた。よほど幅跳びが好きだったんだろう。
だけどそんな彼女の努力をあざ笑うかの様に事故は起きてしまった。極度の体調不良によってめまいを引き起こした彼女は、着地に失敗して転倒してしまう。
そして運悪くもその拍子に、砂場を囲う硬い木枠に頭をぶつけてしまったんだ。
かがみ込んだ俺は彼女の外傷を確かめる。暗がりでよく分からないけど出血は無さそうだ。
次は確か、意識の確認をすれば良いんだっけ? 俺は記憶を呼び戻そうと必死になった。
幸か不幸か。俺はつい2日前、運転免許を更新するため安全講習を受けていたんだ。
その時は興味も無く聞き流していたけど、ビデオによって人命救助方法を視聴したのは確かなはず。自分には関係ないと、捨て去ってしまった記憶を懸命に探り出す。まだそれは頭の片隅に残っているはずなんだから。
「大丈夫ですか! 俺の声が聞こえますか!」
かなり大きめな声で反応を見るも変化はない。同時に頬を軽く叩いてみたが、それもまるで無反応だ。
悪寒と共に今まで感じたことのない緊張感が全身を駆け巡る。
ビデオの演出とは経緯こそ違えど、そこに現実として生身の人間が倒れていることに違いはない。もうやるしかないんだ。考えている時間は一秒も無いのだから。
覚悟を決めた俺は彼女の首を軽く持ち上げ上体を起こす。そして口元に耳を近づけて呼吸を確かめた。
だが嫌な予感は的中する。彼女の呼吸は無情にも止まっていた。
別に格好つけているわけじゃない。単に一人で黙々と走るのが好きだったんだ。だから他の部員と接触する機会は著しく乏しかった。
それでも俺は君達の顔は知っていたんだ。いつも二人で幅跳びの練習に励む姿は微笑ましくあり、俺はそんな二人の姿に元気をもらっていたから。
アスリートとしての技量はお世辞にも高いとは言えない。
けれどひた向きな練習姿勢は、他の誰よりも強い意志を感じ取ることが出来る。
俺はそんな君達にどこか惹かれていたんだろう。
学部こそ違えど、君達は俺と同じ学年だった。そのせいなのか、助けを乞う君は俺の名前を知っていた。
いや、逆に同じ陸上部員であるにも関わらず、君達の名前を知らない俺の方がおかしいんだろう。
そんな事を考えた俺は、意識の無い女性の前で不謹慎でありながらも口元を緩めた。
やっぱり俺は他人とは少しズレているのかも知れない。でもそんなバチ当たりな態度が、俺に不思議と冷静さを取り戻させたんだ。
混乱した君の口ぶりは未だに支離滅裂している。それでも俺は意識のない彼女の身に何が起きたのか、漠然とはしつつも把握することが出来た。
どうやら倒れ込んだ彼女の体調は、数日前から悪かったらしい。日ごろから貧血ぎみだったみたいだけど、でも今回はそれとは少し違う様だ。
君は体調の優れない彼女を気遣い、練習することを控えさせていたようだけど、負けん気の強い彼女はそれを拒みトレーニングをし続けた。よほど幅跳びが好きだったんだろう。
だけどそんな彼女の努力をあざ笑うかの様に事故は起きてしまった。極度の体調不良によってめまいを引き起こした彼女は、着地に失敗して転倒してしまう。
そして運悪くもその拍子に、砂場を囲う硬い木枠に頭をぶつけてしまったんだ。
かがみ込んだ俺は彼女の外傷を確かめる。暗がりでよく分からないけど出血は無さそうだ。
次は確か、意識の確認をすれば良いんだっけ? 俺は記憶を呼び戻そうと必死になった。
幸か不幸か。俺はつい2日前、運転免許を更新するため安全講習を受けていたんだ。
その時は興味も無く聞き流していたけど、ビデオによって人命救助方法を視聴したのは確かなはず。自分には関係ないと、捨て去ってしまった記憶を懸命に探り出す。まだそれは頭の片隅に残っているはずなんだから。
「大丈夫ですか! 俺の声が聞こえますか!」
かなり大きめな声で反応を見るも変化はない。同時に頬を軽く叩いてみたが、それもまるで無反応だ。
悪寒と共に今まで感じたことのない緊張感が全身を駆け巡る。
ビデオの演出とは経緯こそ違えど、そこに現実として生身の人間が倒れていることに違いはない。もうやるしかないんだ。考えている時間は一秒も無いのだから。
覚悟を決めた俺は彼女の首を軽く持ち上げ上体を起こす。そして口元に耳を近づけて呼吸を確かめた。
だが嫌な予感は的中する。彼女の呼吸は無情にも止まっていた。