明日へ馳せる思い出のカケラ
 就職活動にあえぐ俺を尻目にして、君は就職を決めた。
 それもそこそこ名の知れた大企業だ。

 君は運が良かっただけだって言って、その嬉しさを隠そうとしていたね。
 俺が苦しむ時期だっただけに、気を遣っていたんだろう。本当は俺にも一緒に喜んでほしかったはずなのにね。

「おめでとう」

 俺は君にその一言を告げるだけで精一杯だった。
 まともに向き合って祝福してあげるなんて、とても無理だったんだ。
 だって君が羨ましくて仕方なかったから。

 君はいまだにジョギングデートの日のわだかまりを引きずっていたろうに、それでも表面上は俺に対して変わらず接していてくれた。いや、変わらず接するよう努力してくれていたんだ。

 でもそれがいつの頃からか、俺のわびしい心をひどく歪ませていったんだよ。
 その原因は言うまでもない。
 あの日、誰もいない病室で彼女からの話しを聞き、そして彼女のたった一つの願いを汲んでしまったからなんだよね。

 俺の胸の内に後ろめたさが残り続けているんだろう。
 謝らなければいけないのは俺の方なのに、それは分かっているのに、でも君を近くに感じるほど、君が俺への想いを必死で駆り立てようと努力するほど、俺の気持ちは冷めてしまったんだ。

 君を誰よりも愛おしく想っていた心情に変わりはないはず。いや、変わってはいけないはずだったんだ。
 でも俺にはどうすることも出来なかった。
 だって彼女が告げた君のしたたかな内面が、あの日を境にして俺の感情を侵食し始めてしまったんだからね。

 君の就職活動が決して順風満帆だったわけじゃない。
 様々な苦労を乗り越えて勝ち取った賜物なはずだ。
 でも俺はそこに至るまでの経緯には目を向けようとはせず、輝かしい結果だけに意識を奪われてしまったんだよ。

 そしてそこには屈折したひがみと妬みだけが顕在化してしまったんだ。

 心疚しくも俺は思う。やっぱり彼女の言った通りだと。
 君は身近な者の幸せを奪い、それを見せつけては心の中で優越感に浸っているんだとね。
 そしてその穢れた感情は、俺の胸の内を悪意に満ちたものへと急速に変化させていったんだ。
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