明日へ馳せる思い出のカケラ
 何故にこうも気が回るんだろうか。
 それとも俺や君の普段の態度が明らかにおかしかったとでも言うのだろうか。

 彼は俺達二人の関係がうまく行っていないのを察してくれていた。
 だから祝賀会を開いて、そこに俺と君を呼んで仲直りさせようと計画したんだ。

 それを聞いた俺の背中からどっと冷たい汗が噴き出す。
 まったく余計なお世話してくれるぜ。

 俺はそう強がるも嬉しさは隠せない。

 君に会うのがいまだに怖いという罪悪感に駆られた不安は依然として俺の心を広く覆っている。
 でも君と以前のような愛らしい関係に戻りたいという期待感に胸を膨らませているのも本心なんだ。
 そしてその後者を現実のものとするには、気恥ずかしくても前向きに一歩を踏み出さなければならない。

 だって悪いのは全て俺の方なんだ。
 君から歩み寄ってくれるのを待つなんて、虫が良過ぎるにも程があるってモンだろ。

 俺が何をしなければいけないか、その行動理由は明白だった。
 ただ俺にはそれを実行する勇気が無かったんだ。

 でもキャプテンだった彼は俺のそんな脆弱な心情をわきまえていてくれた。
 だからあえて祝賀会開催の名目のもと、君との関係を修復するキッカケの場を設けてくれたんだよ。

 彼の配慮には頭が下がるばかりだ。
 もしかして、本当の友人とは彼の様な者を指し示すんじゃないのだろうか。

 俺はそう思わずにはいられない。
 だって普段一緒に遊び呆けていた同輩達は、そんな気の利いた行動なんて微塵にもしてくれなかったからね。

 でもいざ当日に会場に足を運んだ俺は、息を飲むほどに驚愕してしまったんだ。
 だってそこには病気から復活して大学に戻って来ていた【彼女】の姿が含まれていたのだから。


 キャプテンだった彼は、俺と彼女の関係にまでは知る所ではない。

 だから彼を責めるわけにはいかないんだ。
 彼にしてみれば退部してしまったとはいえ、彼女が無事に元気な姿で大学に通えるようになったことを祝福してあげたかった。
 そんなところなんだろうからね。ほんの少しの善意が招いた結果なんだよ、これはさ。

 でも俺の心境はとても穏やかになんてしてられやしない。
 君との関係に亀裂を生じさせた彼女という存在がそこにいるんだから当然だろう。

 もちろん俺はあの病室での過ちを誰にも言ってないし、彼女だって誰にも言ってないはずだ。
 だけど彼女を目の前にした俺は、呼吸の仕方を忘れるほどに動揺してしまったんだ。
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