明日へ馳せる思い出のカケラ
 腹の中では君に対する禍々しい感情を抱いていたんだろう。
 それでも彼女にしてみたって、君は親友だったはずなんだ。
 そんな掛け替えの無い存在であるはずの君と、その彼氏であった俺の関係を引き裂いてしまった。

 そこに罪悪感がまったく無かったなんて言い切れるはずもない。
 けど彼女は君という存在を切り捨ててまで俺を選んだ。
 覚悟を決めて俺を君から奪い取ったんだ。

 俺はそんな彼女を受け入れてしまった。
 寂しさを埋め合わせる為に彼女を必要としてしまったんだ。

 それなのに俺は彼女の事をどこかで許せなかった。
 君の苦痛の果てに成り立った彼女の幸せ。その不条理さに俺は腹を立てていたんだ。
 その要因たる俺自身の責任には目を背けたままでね。

 彼女は俺と共に過ごす生活に何を思い描いていたのだろうか。
 恋人同士が愛を語り合う甘い日々。そしてそんな生活が病んだ体と心を柔和に癒してくれる。

 異性との交際経験の無かった彼女にしてみれば、そんな穏やかで温かい想いに気持ちを馳せていたのかも知れない。
 いや、むしろそう信じていたからこそ、親友である君を傷付けてまで新しい未来を手に入れようとしたんだ。

 でも結果的にそこには彼女の求める未来の姿は無かった。
 だって彼女が期待する未来と俺が渇望する将来は乖離し過ぎていたのだからね。

 それでも俺が彼女に歩み寄りさえすれば、俺がもっと気遣ってあげさえすれば、彼女は幸せを手に入れられたはずじゃないのか。
 そう詰問されたとするならば、俺はそれを否めない。

 だけど最後まで俺と彼女の間に愛情が芽生えなかったのは、少なからず彼女の方にも問題があったと言わざるを得ないんだよね。

 彼女は理想を追い求め過ぎた。
 ううん、彼女は夢にまで見た恋愛っていう幻想に期待し過ぎていたんだよ。
 そしてその胸に焦がれる強い想いを現実のものとしたいが為に、彼女は俺にせがみ続けたんだ。

 初めての恋愛だったからなのだろうか。それとも彼女の持つ本質がそうさせたからなのか。

 彼女は俺からの優しさを要求するばかりで、その逆に自分から何かを寄与したいっていう感情に乏しかった。
 いつも求めるばかりで、それに俺が応えられないとたちまち機嫌を悪くしたんだ。

 確かに俺の怠慢な態度が気に障ったっていうのも事実だろう。
 でも恋愛っていうのはお互いの為を想い譲歩し合うもののはずだよね。
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