明日へ馳せる思い出のカケラ
 くそっ、頭が痛い。それに吐き気まで込み上げて来たぜ。
 だるい体を引きずりながら、それでも俺は夜道を歩み続ける。

 街に光る外灯はまぶしいほど輝いているのに、でもそこに俺の姿が浮かび上がる事はない。
 それなのに俺の影だけは異常なほど色濃く際立って見えるんだよね。
 まるで俺の心の闇を具現化しているみたいに。

 光りは未来に進むものなんだって、何かの本に書いてあったのを読んだ気がする。
 だから時間の止まった俺の存在を光は通り越してしまうんだろう。

 抜け出せない闇に身を埋めている限り、光は俺を無視し続ける。
 それを心のどこかで理解はしていたけど、でも致命的な欠陥として俺は光を求めていなかったんだよね。

 絶望から抜け出すには光と向き合い、自分自身を照らし出す必要がある。
 だけどそれには身を焼くほどの痛みが伴われるんだ。

 光に自分をさらけ出すってのは、けがれた醜い部分をも全て吐き出す事になるのだから。
 そしてそれを全て受け止め、自分の愚かさを改めて認識しなければならない。

 でも俺には光がまぶし過ぎたから、俺にはそれが怖かったから、だから闇に潜み続けることを願い、そして光を拒絶したんだよ。


 俺の存在には何の価値もない。
 誰も俺の存在に気付きもしない。

 心臓が鼓動しているために、生物学的には生きていると言えよう。
 だけどこれは本当に【生きている】って言えるんだろうか。

 俺はそんな答えの見つからない自問自答ばかりを繰り返し、そしてどう足掻いても消せはしない荒んだジレンマだけを胸に抱えながら歩き続けた。
 外灯によって煌びやかに映し出される人波を、憎む目つきで睨みながら――。
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