明日へ馳せる思い出のカケラ
 レジに戻った俺は、久しぶりに抱く安心感にも似た気楽さに心を委ねていた。

 不思議だね。
 あれほど自責に駆られた毎日に嫌気がさし、かつ社会を呪うほどに敵視していたはずなのに、今は大した考えも無い学生のあざけた言葉に共感し救われている。

 俺が単純なだけなのだろうか。
 ただバカなだけなのか。

 ただ俺はこうも考えたんだよね。
 少しは光を受け入れなければいけない頃合いなのかも知れないって。

 暗がりに身を潜める事に慣れきってしまった俺は、光に身を焦す事を恐れていた。

 君との関係が終わりを告げた苦い記憶を思い出したくない。
 そう願っていたのだから当然だろう。
 でも心の奥底では、その真逆に君との甘い思い出をいつまでも引きずっていた。

 あの頃に戻りたい。そう切実に祈っていたんだよ。

 そんな自分の正直な心情を把握出来るようになっただけでも、それなりに現実における時間の経過は俺を癒す役割を担ってくれたんだろう。
 そして大切なのは、いくら悩み悔やんだところで、決して君とは元に戻れないっていう事実なんだよね。

 このまま心を闇に留めて置いた方がどれほど楽であろうか。
 社会を逆恨みし、責任を放棄する事の方がどれほど容易であろうか。

 でもそれがいけない事だって分かってきたからこそ、このままでは本当に自分の存在意義が失われるって分かって来たからこそ、俺は光に手を伸ばしてみようかと考える気になったんだ。

 だけど君への過ちという苦い想いは、そう易々と俺の足を前には踏み出させてくれなかった。

 それもそのはず。自分から捨て去った過去を夢見ている限り、前向きに進もうなんて虫が良過ぎる話なんだよね。
 だからその罰として、俺は今になっても悪夢ばかりにうなされているんだろう。

 光に身を投じるべきか。それとも闇に潜み続けるべきか。

 その判断に苦しむものの、しかしその答えを俺はもう出していた。
 その証拠に俺は全ての思い出を消し去ろうと努力を始めたんだ。
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